■有馬記念というレースが持つ重み
いったいどこに感動させられたのか……。この有馬記念に限っては主人公のマキバオーではなく、ライバルのカスケードのほうに感情移入しながら読んでいたのは間違いありません。
あんなに強く、いつも堂々とした走りを見せていた絶対王者が、実力の衰えではなく、病という避けようのないアクシデントで最強の座から降りねばならない事実……そういった競馬のやるせなさや無情さを痛切に感じるレースでした。
それでも今後も競馬界で走り続けるライバルたちのために命をかけ、最強の競走馬としての意地と魂を見せつけたこと。そしてマキバオーは彼の魂を受け取り、実際のレースの勝敗は関係なく、幻想かもしれませんが一番強かったカスケードと真剣勝負をしました。
この一連の展開や構図は、競馬マンガという枠組みを越えて、スポーツマンガの中でも屈指の名シーンだと思います。おそらく単純に主人公が勝利するという筋書きであれば、ここまで感動させられることはなかったでしょう。
ちなみに『マキバオー』以外の競馬マンガでも、本島幸久氏の『風のシルフィード』(講談社)のライバル馬「マキシマム」が有馬記念のレース中に故障してラストレースとなったり、ゆうきまさみ氏の『じゃじゃ馬グルーミン UP!』(小学館)では、主人公のいる渡会牧場の生産馬「ストライクイーグル」が有馬記念で劇的な勝利をおさめる場面などもありました。有馬記念という舞台は、こうしたドラマを描くのにふさわしい舞台なのかもしれません。
現実の有馬記念ではオグリキャップやトウカイテイオーの起こした伝説的な勝利を始め、いろんな名勝負が語り継がれています。まもなく発走となる「第66回・有馬記念」では、どのようなドラマが待ち受けているのでしょうか。