■突如訪れた“限界”
そのとき、突然3コーナーでカスケードだけが失速します。ここで回想シーンが入り、カスケードは「マリー病」という病気を患っていることが判明するのです。
マリー病とは、実在した世界的名馬ダンシングブレーヴも患った奇病で、不治の病と言われるもの。競走馬として致命的な病を隠しながらカスケードが有馬記念に出走したのは、「競走馬の力を決めるのは血だけじゃない」という確固たる意志を“これからの馬”に伝えるためでした。
不調のカスケードが無理して走っていることに気づいたマキバオーは、カスケードの横まで下がり「休んで体を治してからやり直そう!! 来年また走ろう!!」と泣きながら説きます。
この言葉を聞いたカスケードは「オレはきさまをかいかぶっていたようだ…」「きさまは最低の競走馬だ…」と言い放つと、最後の直線で猛烈に加速。中山競馬場の短い直線で一気に先頭に躍り出たのです。
“黒い疾風”と呼ばれたカスケードの豪脚を見て、ライバルたちは一斉に猛追。一方、カスケードの命がけの走りを泣きながら見守るマキバオーに、鞍上の山本騎手は「お前がバトンを受けない限りあいつは走りつづけなきゃならないんだ」「安心して引退させてやれ!!」と檄を飛ばします。
これで火のついたマキバオーは持ち前の末脚でカスケードを追撃。中山競馬場の最後の急坂でさらに加速すると、一気にカスケードに並びかけます。圧倒的な強さを誇った“漆黒の帝王”カスケードと、“白い奇跡”マキバオーの壮絶なデッドヒートは、それほど長くは続きませんでした……。
残り50メートルのところでカスケードを置き去りにしたマキバオーは、差をグングンと広げていきます。もはや勝敗は決しましたが、マキバオーは加速をやめようとはしません。
そのときのマキバオーの咆哮のような叫びが忘れられません。「見えないのか!? 感じないのか」「伝説はここにある、黒い風は吹いてる」「これがカスケードだ!!!」「僕たちが命懸けで追いかけて来たカスケードだ!!」。
実はこのとき、すでに力尽きたカスケードは後続の馬群に飲みこまれています。マキバオーの目に映っていたのは、全盛期のカスケードが先頭を走る“幻影”。ゴール板の直前、マキバオーは「これで終わりだあああ」の叫びとともに、カスケードの幻影をも抜き去ってゴールします。