■最愛の妻が与えた影響
また、別の角度からも見てみよう。妻・瑠火が生きていた頃の槇寿郎は、子ぼんのうで家族愛あふれる頼もしい柱だったのは間違いない。それはテレビアニメ『無限列車編』の第1話で描かれた鬼討伐の過去エピソードや、エンディング主題歌のときに流れる家族写真風の映像からも察することができる。ちなみに、ドラマCD「煉獄杏寿郎の使命」では、槇寿郎と瑠火の若かりし頃の仲むつまじいエピソードも語られている。
そんな瑠火が作中に遺した言葉で印象的なのは、「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」「責任をもって果たさなければならない使命なのです」というセリフ。これは幼い杏寿郎に母として伝えた素晴らしい言葉だが、これが夫婦の間での共通認識だとしたら「日の呼吸」の存在を知ったあと、槇寿郎がどのように受けとめたのか気になる。
本当に守りたかった最愛の人を喪失。さらに自分よりもはるかに「強く生まれた者(=日の呼吸の使い手)」が存在するとなれば、本来負うべき“責務”や“使命”を手放してしまう気持ちも分からなくはない。
ここまでの話は、作中の状況やセリフからの推察にすぎず、家族や周辺の人々に対するヒドイ言動が肯定されるワケではない。しかし我が子・杏寿郎が自分に遺した言葉を聞き、肩を震わせて一人涙を流す「遊郭編」第1話の槇寿郎の姿を見てしまうと、いろいろ考えさせられてしまう。