■「見えなくたって分かるだろ? いい奴だったさ。あんたが知ってる通りのな」

 第8話「ワルツ・フォー・ヴィーナス」で賞金首を追って金星に向かったスパイクは、偶然出くわしたハイジャック事件をきっかけに陽気な若者・ロコと出会う。ロコは目の見えない妹のステラの治療のため、自らが属する窃盗団が盗み出した特効薬の植物をネコババしていた。

 結局ロコは窃盗団との銃撃戦で命を落としてしまうのだが、一度も自分の目でその姿を見たことがないまま永遠の別れとなってしまった兄がどんな人だったのか、とステラに問われたスパイクの答えが上記のセリフだ。

 もの悲しいビターエンドでありながら、人情味と優しさに満ちたスパイクの言葉によって救いがもたらされている。

 このエピソードにはもうひとつポイントとなるセリフがある。待ち合わせに先回りしてロコを追おうとするスパイクにフェイが「待ってれば? どうせ会うのに」と声を掛けると「賞金の女神には前髪しかねえって言うだろ」と答える。

 フェイのツッコミを待つまでもなく「幸運の女神には前髪しかない」ということわざのもじりなのだが、過去を振り返っていては何もつかむことはできない、何があったとしても人は前を向いて生きるしかないのだ、というエピソード全体のテーマを示唆するものとなっている、というのはうがち過ぎだろうか。

 これと同様の方向を示すのが、第15話「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」でスパイクがフェイにかける言葉だ。コールドスリープから目覚める以前の記憶がなく、その手がかりも失ってしまったフェイに対して、スパイクは明るいトーンで「過去はどうあれ、未来はあるだろ」と言い放つ。スパイクたちビバップ号の面々は、それぞれに複雑な過去と葛藤を抱えている。

 いずれ決着をつけなければならない過去にとらわれる気持ちと折り合いをつけながら、それでも確かに未来はあると信じて生きていく、ポジティブなメッセージだ。

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