■愛を知らぬ男を変えた女性の存在

 愛ゆえに哀しみを背負い、北斗神拳の究極奥義「無想転生」を身につけたケンシロウと対峙した際、ラオウは初めて恐怖した。

 この恐怖を克服し、ケンシロウに勝つために必要なものは、“愛”を知るがゆえの哀しみだと悟ったラオウは、心をひかれていた慈母のごとき女性ユリアをその手にかけようとする。

「おまえの命をくれい!!」というラオウの言葉におとなしくひざまずき、ユリアは自らの命を差し出そうとする。そのときユリアも、弟のトキと同様に不治の病に侵されていることが発覚。死が迫りながらも宿命のために殉じようとするユリアの生き様に胸を打たれ、ラオウは涙を流した。

「こ……殺せぬ。このラオウにこの女は捨てることはできぬ!!」。ユリアを殺すのではなく、殺さなかった(仮死状態にした)ことで愛と哀しみを知ったラオウは、その結果、北斗神拳の究極奥義「無想転生」を会得するのである。

 ラオウがユリアを殺していなかった事実は、ケンシロウとの死闘のラストで判明することになるが、このラオウが愛を知るに至った経緯とその後の行動に感動した読者は多かったことだろう。

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