『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)は、1980年代を代表するバトル漫画としていまだに語り続けられている傑作。主人公のケンシロウと、さまざまな好敵手たちが死闘を繰り広げるストーリーは多くのファンの心を打った。
そんなライバルたちの中で、とくにファンから支持されているのが北斗4兄弟の長兄であるラオウというキャラクターだ。「世紀末覇者拳王」を名乗るラオウは、暴力と恐怖で世紀末の世を支配した極悪非道な悪役でありながら、2018年に『北斗の拳』35周年を記念して実施された人気投票「北斗の拳 国民総選挙」で1位を獲得。これほど人気者の悪役は珍しいのではないだろうか。
己の覇道をひたすら突き進みながら、ときおり人間らしい感情をチラッと出すのがラオウの魅力。そこで今回は個人的にラオウの言動の中に“愛情”を感じた、3つの印象的なシーンを紹介したいと思う。
■実の弟との激闘の末に見せた涙
ラオウにとってトキは実の弟で、この2人は北斗4兄弟の中で唯一血のつながりがある。
死の灰を浴び、病に侵されたトキは、自らの死を覚悟して実兄・ラオウに決戦を挑む。かつてラオウは「もし俺が道を誤ったときは、おまえの手で俺の拳を封じてくれ」とトキに伝えており、その約束を果たすためにトキは動いたのである。
圧倒的な強者・ラオウに対抗するため、トキは自らの寿命を縮めてパワーアップを図る秘孔「刹活孔」を突き、ラオウと同じ「剛の拳」を得る。しかし、それも長くは続かなかった。
次第に弱りゆく弟の拳を見たラオウは、トキの腕をつかみ「効かぬのだ!!」と涙を流す。ラオウが認めたほどの天賦の才能を持っていた弟・トキに死期が近づき、病で衰えながらも、幼き日に交わした兄との約束のために立ち向かってきた。そんな弟の純粋な行動が、枯れていたラオウの涙を呼び戻したのである。
そして地に伏せたトキに向けて、ラオウは「さらば!! わが最愛の弟!!」と叫びながら拳を振り下ろす。だが、ラオウの剛拳はトキの体ではなく大地を殴りつけ、命を奪うことはなかった。
「残る余生安らかに暮らすがよい」「体を愛えよトキ……」そう言い残して去っていくラオウの姿は、世紀末に君臨する拳王というより弟想いの兄にしか見えなかった。