■さあ牛だ!

 道場での青雲試練編を通過したら、次は全国大会。「自立練磨編」が始まる。

 全国空手大会の会場に向かう主人公。ここからは最終段位の「名人」になるまで地獄のような連続組み手に臨まなければならない。うひぃ!

 そして筆者は、ここでもルチャ戦法で白星を積み上げる。組み手が終わるとボーナスステージで、右から飛んでくるビール瓶や植木鉢を破壊する演舞(危ねぇだろ!)や瓦割り、しまいには氷柱割りをもやらされるはめに。ちったぁ休ませてくれてもいいんじぇねぇか!?

画像はNintendo Switch『アーケードアーカイブス 空手道』より

 そして各段昇段時、ゲームはどういうわけか「超人爆裂編」という物騒なサブタイトルに突入する。主人公が突然「さあ牛だ!」と発声すると、舞台はいきなり砂浜へ。右から突進してくる牛を、我が鉄の拳で突き倒すという内容だ。

「↓+↑」の操作でしゃがみ逆突きを発動し、これで猛牛をしとめる。動物愛護団体に抗議されそうなボーナスゲームだが、当たり判定が組み手のとき以上にシビアで少しでもタイミングがずれると牛にひかれてしまう。もっともこのパートは、やられてもゲームオーバーにはならない。

画像はNintendo Switch『アーケードアーカイブス 空手道』より

 ルチャ戦法はとどまるところを知らず、牛を倒しつつ全国大会で白星を重ねていく、ついに7段の選手をも倒してしまった。だが、このゲームは8段以上になるとかなり難しくなる。ここまで来るとルチャ戦法も精彩を欠くようになり、無残なKO負けを喫してしまう。しかしよく考えてみると、空手の8段ってとんでもねぇ高位だぞ!?

 筆者は格闘技の経験があり、総合格闘技、キックボクシング、グラップリングで合わせて50戦以上経験しているが、その中で白星などせいぜい10個ほど。しかも、その10勝はすべて組み技限定のグラップリングで重ねたものだった。打撃種目って、本当に難しいのだ。だからもっと胸を張れよ、主人公! 自分の戦歴を誇りに持ってくれ!

■「一動作一機能」の常識を打ち破る

『空手道』の最大の功績は、「特定の操作を組み合わせることでまったく違う動きを再現する」という発想を「常識」として確立させた点ではないだろうか。

 それまで、ボタンにしろレバーにしろ操作は「一動作一機能」が常識だった。エレベーターの「3」のボタンを押したら3階にしか行けないが、それはコンピューターゲームも同じだった。Aボタンにジャンプの動作が振り分けられていたら、最初から最後までAボタンではジャンプしかできない。

 しかし『空手道』は、ジャンプを行う左レバーの「↑」と前蹴りを行う右レバーの「→」を同時に入力することで、単純なレバー操作では実現できない飛び横蹴りを繰り出せる。「↑+↓」の前方宙返りの直後に「↓+←」を入れて絶妙な足払いを相手に浴びせる、ということだって可能だ。それを防がれたらもう一度「↑+↓」で前方宙返りをし、元の位置に戻って素早く右レバー「↓」のローキック、しかしそれはフェイントで本当は「←+→」の豪快な後ろ回し蹴りが待っている……などという大胆かつ複雑な戦い方もできる。

 また、『空手道』は相手の攻撃を見計らって左レバー「←」を入力すると、後方移動ではなく防御の構えを取る動作も備わっていた。現代の格ゲーでは当たり前のものだが、それは『空手道』が確立した項目である。

「さあ牛だ!」のインパクトに目を向けられがちな『空手道』だが、ゲームの時代を文字通り進化させたのだ。

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