■セリフでは語られない、小道具に込められた物語

 恋柱・甘露寺蜜璃が隊服の上に着用している羽織は、外見の派手さに反していたってシンプルな白いもの。これは彼女を継子として育てた煉獄杏寿郎が「鬼殺隊士になったお祝い」として贈ったものだということが『鬼滅の刃 煉獄杏寿郎外伝』で明かされた。このころは煉獄もまだ炎柱ではなく階級は甲の隊士で、甘露寺に贈ったものと同じ白い羽織を身に着けていた。甘露寺はきっとそのときもらったものを、柱となった現在も大切に身に着けているのだろう。

 最後は、竈門炭治郎の緑と黒の市松模様の羽織。市松模様を身につけているのは炭治郎だけではなく、妹の禰豆子は帯に赤と白の市松模様がデザインされ、このほか竈門家の家族もみな何かしらの色の市松模様の服を着用している。市松模様のもつ意味は「子孫繫栄」。先祖である炭吉の時代から、耳飾りとヒノカミ神楽を守り続けてきた竈門家にふさわしい柄だ。

 そんな炭治郎だが、鬼殺隊への最終選別のときだけは師匠である鱗滝左近次と同じ鮮やかな瑞雲柄の羽織を着ている。この理由こそ明示されていないが、縁起のいい柄として知られる瑞雲柄の羽織を炭治郎に着させたことは、無事の帰還を祈る師匠の優しさが現れていたと推察される。

 それぞれの羽織の背景には、必ず大切な人の存在がある。彼らは、ともすると死亡してしまうかもしれない過酷な戦の中でも、いつも人間らしい優しさや気高さ、大切な人を思う気持ちを持って戦いに挑んでいた。『鬼滅の刃』ではセリフで語られない部分にも、その人の生きてきた「人間的な深み」が感じられることが魅力だろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3