■静けさの中で風と芝目を読むゴルフの醍醐味
そしてこのゲーム、何と「風向き」と「芝目」という概念もあった。
たとえば強風が右向きに吹いている場合は、あえて狙いを左側へ傾ける。すると打ち出されたボールがバナナのように曲がっていく。「風を読む」のもゴルフの基礎テクニックだ。
グリーン内では芝の向きというものもある。これはボールの転がる速度や方向に作用し、芝目に逆らうショットの場合はいつもより強めに打たなければならない。文章で書く分には簡単だが、やってみるとなかなか難しい!
カップインの効果音などは鳴るが基本的にはBGMがなく、実際のゴルフ場のような雰囲気があるだけでなく、難易度自体も本物のゴルフを見事に再現していた。すなわち、プレイヤーの技量や経験、勘がスコアに直結するという点だ。初心者はパー(規定打数)どころかトリプルボギー(規定打数+3)でもまだ足りないくらいに叩いてしまうが、慣れてくるとバーディー(規定打数-1)も狙える。ちなみに筆者はこの記事を書くために『ゴルフ』をプレイする中で、イーグル(規定打数-2)を成功させてしまった。
ただし、全18ホールを回る中で規定打数を維持するとなるとやはり大変だ。常にパーかバーディーで収めてしまうプロ選手がどれだけすごいかを、このゲームは教えてくれる。
■ゴルフのために『ゴルフ』をプレイしていた!
一方、『ゴルフ』はやはりゲームなんだな……と思える点もある。それは「破天荒な設計のホール」だ。
森林に囲まれたフェアウェイ、途中の池、バンカー、そしてグリーン……といったスタンダードなホールもあるが、中には途中で闇の森林に区切られたホールや、点々と島になっているホールも。後者などはどうやって移動するんだろう? キャディーさんがモーターボートでも運転するのかな?
ティーショットからアイアンを選ばなければOBしてしまうほど狭いホールもある。ゆえにこのゲームは戦略性にも富んでいた。本物のゴルフについて考察するために『ゴルフ』をプレイする、ということもできたのだ。
80年代のおじさんたちは、このゲームのとりこになった。当時は日本各地にゴルフ場が建設され、ゴルフ会員権が投資の一手段になるほどのブームが発生していた。クラブセットも飛ぶように売れまくり、女性のプレイ人口も急増した。大企業の会社員は休日を返上して取引相手との接待ゴルフに出かけ、「あなたのハンデはいくつ?」というひと言で初対面の人との会話が弾んだ。今よりも景気が良かった頃の話である。
そんな時代背景を背負って登場した『ゴルフ』。シンプルな操作性で中高年層に受けてヒットし、ファミコンソフトの中でも歴代5位となる売上を記録しているモンスタータイトルでもある。現在はNintendoSwitchの「アーケードアーカイブス」でもプレイ可能な黎明期ファミコンの偉大な名作。未プレイの方にはぜひ体験してみてほしいところだ。