■優しさを武器にする新たな勇者像

 勇者の娘・ゆうは、とても心の優しい子で、勇者になるためにいろんな人助けをしていくことになります。世界を救うため、ではなく、勇者になるため、に冒険を始めるというのも少し新鮮です。

 また、最後まで「ゆう」と「ドラゴン」のお話なので、プレイヤーが主人公などにロールプレイすることはほとんどありません。状況によって、ドラゴンにもゆうにも感情移入する場面があり、その感覚はまさに絵本を読んでいるようでした。

 また、ゆうは悪いことをしている魔物を見れば「暴力はダメだよ」「どうしていたずらするの?」と悪即斬の精神ではなく、「悪者にも寄り添う」ことで彼らを救おうとします。

 たとえば、魔王城のふもとの村で、かつては仲が良かった2つのグループのケンカを止めるサブクエストでは、両方の立場を立てながら、暴力が起こらないようにお手伝いをします。すると、気が立っている彼らもゆうの優しさに触れることで、落ち着きを取り戻したり、ゆうにだけ「実はこんなことしたくないんだ……」と心を開いたりと、少しずつ話が進展していきます。

 基本的にはこんな感じで、ゆうの優しい心に触れた登場人物たちが救われていく、という強さではなく優しさを武器にしている様子が随所にみられ、新たな勇者像を見た気がしました。ゆうはきっと、ドラゴンから毎夜聞いていた「ドラゴンを許し、とどめを刺さなかった父親」の話を聞き、「勇者とはこうあるべき」という考えを持っていたのでしょう。

 とにかくゆうは誰にでも優しくて、誰かの役に立てることを心から喜んでいる。そういったところに「絵本の中の登場人物感」を感じ、私は心地よかったです。

 ですが、そんな優しい物語の中にも「死」の表現があり、人の生き死にについて考えさせられる部分もあります。人生観・道徳を学べるという点も絵本そのもの。ゆうが成長し、ドラゴンを打倒する日は来るのか……。そして育ての親であるドラゴンが、勇者を目指すゆうが倒すべき魔王だと知ったとき、彼女はどんな決断を下すのか……。

 物語はかなりストレートにプレイヤーに訴えかけてきます。いわゆる「泣きゲー」という構成で、明らかに泣かせにきます。そして、おそらくほとんどのプレイヤーがまんまと泣いてしまうことでしょう。

 ドラゴンの気持ちもゆうの気持ちも痛いほど共感できる最終盤は、胸がはりさけそうな思いでこの“親子”を見ていました。

「強さ」とはなんなのか。「愛」とはなんなのか。

 気恥ずかしくなるようなテーマを、絵本の世界観でストレートに描き切った本作の物語は、とても素晴らしいものだったと断言できます。

 喧騒に疲れた社会人に、ゲームに興味を持ち始めた子どもたちに、ぜひプレイしていただきたいなと思います。

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