■容疑者になっても揺るがぬ信頼

 金田一が連続殺人事件の容疑者となった「金田一少年の殺人」というエピソードがある。どう考えても自分が殺人犯という絶望的な状況に置かれた金田一は、一度警察に捕まったあと逃亡。さらに次々と発生する殺人現場にも居合わせる。当然警察は全力で金田一を追跡することになり、彼と仲の良い剣持警部は警察内部で苦境に立たされた。

 それでも剣持警部は「金田一は犯人なんかじゃないさ」「俺は絶対にそう信じている」と全面的に擁護。そして金田一が逃げている状況について、剣持は「奴は真犯人を自分の手で捕まえようとしてるんだよ」と金田一の行動理由を的確に言い当て、ムチャだという部下に「いや……奴ならできる!!」と確信を持って断言している。

 また、逆に剣持警部が殺人の容疑者にされた事件もある。それは「剣持警部の殺人」というエピソード。この事件には3年前に起きた女子高生遺体遺棄事件が大きく関与していた。死亡した女子高生は剣持警部の知り合いで、当時少年たちに監禁暴行を受けた末に転落事故死。しかし、その実態はリンチ殺人に近い内容だった。

 それから3年、犯人だった少年が次々と“処刑”され、容疑者として浮上したのが剣持警部だ。犯行に剣持警部の拳銃が使用され、彼の指紋なども現場の証拠として残されていた。

 しばらく行方の分からなかった剣持警部は警察に保護されたが、その間の記憶を失っており、状況を聞かされた剣持警部は「もしかしたらこの事件は『もうひとりの俺』が起こした事件なのかもしれん……」と自分自身を疑い始める。

 しかし金田一は「オッサン、あんたが自分を信じなくても、俺はあんたを信じるよ」と伝え、真犯人を見つけ出すことに全力を注ぐ。金田一の活躍で真の黒幕が明らかになったが、金田一と明智警視だけは最初から最後まで剣持警部のことを信じ切っていたのが印象的な事件だった。

 祖父・金田一耕助譲りの推理力を持つ金田一や、彼に匹敵する天才的な頭脳を持つ明智警視といった傑出した2人に比べると、剣持警部はあくまで凡庸な警察官にすぎないかもしれない。だが、そんな天才たちが誰よりも信頼していたのが剣持勇という男である。

 さまざまな凄惨な事件が頻発し、ドロドロした人間関係が描かれることの多い『金田一少年の事件簿』において、愚直ながらも清廉な剣持警部の人柄は一服の清涼剤のようにも感じられる。

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