■一度聞いたら忘れない必殺打法

 最後に紹介したいのは、原作・遠崎史朗氏、作画・中島徳博氏による激アツの野球漫画『アストロ球団』(集英社)に登場した必殺打法。同作は試合中に「死人が出るのも当たり前」というブッ飛んだ作風で、野球漫画でありながら、まるでバトル漫画を読んでいるような気分にさせられる傑作だ。

 そんな作品なので、いろんな必殺打法や魔球が飛び交うが、とくにお気に入りだったのが「ジャコビニ流星打法」だ。アストロ球団の宇野球一が「ジャコビニ流星打法」で放った打球は、まるでボールが分裂したかのように見え、野手も「ど…どれがボールだ!?」と困惑する。
 この必殺打法は超人的な守備力を誇る外野手を破るため、実在する「ジャコビニ流星群」をヒントに宇野球一が考案。そのからくりは、あらかじめヒビの入ったバットで球を打ち、砕けたバットの破片と一緒に球を飛ばすというシンプルなものだ。野手からすると、飛んでくるバットの破片がボールのように見えたという。

 宇野球一は「ジャコビニ流星打法」で打ったボールをそのままスタンドインさせていたが、砕けるほど激しく折れたバットでホームランを放つパワーも豪快のひと言。もちろんあらかじめバットにヒビを入れておくのはルール上反則だが、この作品においてそんな細かいことはどうでもいい話。

 たまに実際のプロ野球でもバットを折りながら安打や本塁打を打つシーンを見ることがあるが、そのたびに心の中で「ジャコビニ流星打法」を思い描いてしまうのは、きっと私だけではないと思いたい。

 今回は個人的に衝撃を受けた野球作品の必殺打法を紹介したが、もちろん野球漫画ファンそれぞれにお気に入りの必殺打法が存在することだろう。

 もっとも160キロ以上の豪速球を投げる日本人投手がメジャーリーグで本塁打を量産しているという現実が、我々が読んできたフィクションの漫画をすでに超越している気もするのだが……。

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