■ハドラーが涙した、ポップの慈悲深い行動
最後に紹介したいのは、アバンやその使徒たちの長年にわたるライバルだったハドラーに関するシーンだ。
超魔生物となったハドラーとダイの最終決戦は、ダイの勝利に終わった。そのとき死神キルバーンが現れ、死闘で力を使い果たしたダイとハドラーを亡き者にしようと殺しの罠を発動。ダイとハドラーは魔界の炎によって作り出されたドームの中に閉じこめられたが、その罠にポップも飛びこんだ。
ポップがヒャダルコの呪文で中から魔界の炎を抑え続ける中、極大消滅呪文「メドローア」で炎の天井部分を撃ち抜いて脱出する策を思いつく。しかし、ヒャダルコで炎を抑え続けるかぎり、ポップにはメドローアを放つ隙がなかった。
そのときダイとの戦いに敗れて瀕死のハドラーが立ち上がり、最後の力を振り絞ってポップがメドローアを放つ時間を稼いだ。その瞬間にポップはメドローアを放ち、開いた穴からダイがルーラで脱出に成功。ポップも一緒に逃げるはずだったが、なぜかポップは炎のドームから離脱していなかった。
これに驚いたハドラーに、ポップは「…悪りィ…あんたに…見とれちまった…」と告げる。長年の敵であり、もはや命が尽きようとしているハドラーだったが、最後のところでポップは彼を見捨てることができなかったのだ。
さらに「いっしょに行こうぜ」「アバン先生のいる あの世へさ……」と語ったポップの言葉に、ハドラーは涙を流す。そしてハドラーは人間の神に「この素晴らしい男だけは生かしてくれっ!!!」と願ったのである。
そのハドラーの願いが通じたのか、この絶体絶命のピンチに死んだと思われていた勇者アバンが現れる。アバンによって二人は救われたが、ハドラーはかつてのライバルであるアバンの胸の中で、まもなく息絶えた。
この一連の『ダイの大冒険』を代表する名シーンを生み出したのは、まぎれもなくポップの人間らしい情に満ちあふれた行動があってのことだろう。ハドラーとともに自らの命を捨てる判断を下した是非はともかく、損得を考えずに人間らしい行動をとってしまうポップというキャラクターが、たまらなく好きになる場面だった。
今回紹介した3シーン以外だけでなく、成長したポップが頼もしい戦力となってからも、さまざまな出来事に彼が苦悩する場面が描かれている。完全無欠な存在より、そんな強さと弱さを兼ね備えた人間にこそ魅力を感じてしまうのかもしれない。