■「金のなる木」になったタイソン
しかし現実のタイソンは、衝撃的KOを積み重ねた全盛期から絶望の衰退期へと足を踏み入れようとしていた。最大のきっかけは、カス・ダマトの死去である。
ダマトはタイソンの周囲に優秀なスタッフを置いていたが、ダマトの右腕だったトレーナーのケビン・ルーニーをタイソンは解雇してしまった。そこへやって来たのが、金権主義で悪名高いプロモーターのドン・キングである。
キングはタイソンにあらゆるものをあてがった。クルマ、社交界、女。しかし生前のダマトはキングを徹底的に嫌い、警戒もしていた。「あいつのプロモートだけは絶対に受けるな」と。
キングにとって、ボクサーとは「金のなる木」以外の何ものでもない。それがダメになれば、次の木を探すだけだ。ボクシング技術の源泉だったルーニーを捨ててしまったタイソンは、その後「恐怖を操る技能」だけを武器に戦うことになる。ドン・キングに搾取されながら――。
■そこにいるのは「全盛期のタイソン」だ!
プロボクサーとしてのマイク・タイソンを終わらせたのはドン・キング。これはボクシングファンにとっては定説である。タイソンがキングとプロモーション契約を結んだのは、1988年。『マイクタイソン・パンチアウト!!』が一般販売された翌年のことである。
言い換えれば、このソフトはタイソンの「最後の輝き」を切り取った作品ということ。リトル・マックとそれを操作する少年少女たちは、本当に強かった頃のタイソンと正々堂々戦っていたのだ。