■バイクは「身近な存在」だった
当時のバイクブームがいかに壮絶かつ華やかなものであったかは、その頃のバイク雑誌を読めば分かる。
モトクロスのライディングテクニックを数ページにわたって解説した上で、有名ライダーがモトクロス講座の受講生を募集したりもする。新発売のマシンがあれば、それを大学の研究室へ持っていき、正確な馬力やトルク、最大回転数を徹底的に分析して記事にする。さらに当時の二輪メーカーは、毎月のように新型車を発表していた。その広告がカラーページで掲載され、高校生はそれを見ながら購入費用捻出のためのアルバイトに励んでいた。
熱狂は二輪免許を取得できない中学生以下の子どもたちにも伝導する。男の子であれば、自分もいつかはバイクに乗るということを現実問題として認識していた。ライダー自体が高齢化している令和とは、状況が何もかも違ったのだ。
■子どもたちのモトクロス大会
さて、そんな時代に生まれた『エキサイトバイク』だが、もちろんそんなバイク文化などまったく知らない子どもたちが夢中になって遊べるように作られていて、操作はめちゃくちゃシンプル。十字キーの左ボタンで前輪を持ち上げることでさまざまな障害物を乗り越え、Bボタンで加速したりジャンプしたり泥沼を避けたりしつつ最速でゴールを目指す。
そして何より楽しかったのが、コースを自由に作成できる「DESIGN(デザイン)」モード。同作の翌年に発売されたバイクゲーム『マッハライダー』でもコースを作成できるモードがあったが、エキサイトバイクでのデザインモードはジャンプ台や障害物を好きなだけ置きまくれるというのが楽しかった。
凸凹を何十個も連続で置いたり、泥沼だらけにしたり、小ジャンプをつなげたりと作りたい放題。作ったコースで実際に走ることももちろん可能で、そのコースで友だちと腕を競うこともできる。己の名前を冠した「〇〇杯」というモトクロス大会を主催した子どもたちは、日本全国に数え切れないほど存在するはずだ。
一時期に比べ、バイクゲームはめっきり影が薄くなってしまったが、バイクブーム真っ盛りだった80年代はバイクという乗り物が、子どもたちの身近にあった時代。画期的な機能を盛り込んだエキサイトバイクは、80年代半ばの時代背景を十二分に反映する名作ソフトとして今でも語り継がれている。