■最後までカミーユと通じ合えずに……

『機動戦士Zガンダム』には、フォウ・ムラサメという強化人間が登場した。彼女は地球連邦軍のムラサメ研究所で強化人間にされた孤児で、過去の記憶を故意に奪われていた。主人公のカミーユ・ビダンとは敵対する勢力に属したフォウだったが、次第にカミーユと心を通わせるようになり、作品のヒロイン的な扱いで描かれたことでもおなじみだ。

 そんなフォウも結局は悲しい最期を迎えてしまうのだが、カミーユとの邂逅を経てからのフォウは失っていた人間らしい心を取り戻す場面もあり、カミーユと互いに想いを寄せ合うことができたのだから、まだ救いがあったほうかもしれない。

 個人的には、本当の意味で救われなかった強化人間の筆頭とした挙げたいのが「ロザミア・バダム」だ。彼女もティターンズが生み出した強化人間の1人で、最初はギャプランに乗っていた優秀なパイロットだった。

 しかし彼女は偽の記憶を植えつけられ、カミーユのことを兄と思いこまされてアーガマに潜入することに。年下に見えるカミーユのことを「お兄ちゃん」、自身のことを「ロザミィ」と呼び、大人っぽい雰囲気の姿からは想像もできない幼い言動を繰り返した。(当時17歳だったが……)

 そんなむじゃきなロザミィにカミーユは翻弄されながらも次第に打ち解けていく。だが、戦いの中でロザミィは本来の軍人としての記憶を取り戻し、ティターンズへと帰還。そのとき彼女の精神状態は以前より不安定になっていたため、今度は同じ強化人間のゲーツ・キャパのことを兄だと思いこまされてしまう。

 たびたび軍の都合で好き勝手に記憶をイジられたロザミィの精神はボロボロ。挙げ句、サイコガンダムMk-IIに乗ってカミーユのZガンダムと対峙することになる。

 精神崩壊寸前のロザミィにカミーユは必死の説得を試みたが通じず、最終的にはサイコガンダムで暴走。やむなくカミーユの手でコクピットを撃ち抜かれ、ロザミィは宇宙に散った……。

 最後まで、本当の意味で人間らしい心を取り戻すことができなかったロザミィ。一時は兄と慕ったカミーユの手でトドメを刺されるという切ないラストシーンまで含め、いまだに忘れることのできない悲しい強化人間の1人だ。

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