■むちゃくちゃな国民世論も
『ジャパンバッシング』は、当時の国際ニュースを上手に反映させている。日米の政治情勢やソビエト連邦の政変、世界を騒がせた大事件もしっかり収録されている。大平正芳やアンドロポフなんて、久々に聞く名前だぞ。
そしてこのゲームの最大の特徴は、アメリカのおかしな国民世論である。「日本の関税設定は不公平」「なぜ農産物の輸入を認めないのか」という世論は一理あるが、中には日本という国を明らかに誤解しているようなものもある。たとえば以下のようなセリフだ……。
「最近国内で忍者を見ることが多い。何とかしろ」
それは単に、忍者のコスプレをしてる奴をたまたま見かけただけじゃねぇか?
「カーネル・サンダース様を川に落とした奴を死刑にしろ」
あったなぁ、そういうことが。阪神タイガースが優勝したときの「道頓堀カーネル事件」だろ?
「日本には、“ノーキョー”という外国農産物排斥集団があるという」
おいやめろ。この記事が炎上しちまうじゃねぇか!
「学校給食に月1回アメリカンステーキの日を作れ」
そんなの知るか!
このような具合に、むちゃくちゃな国民世論が日米間の議題と化すこともある。いちいち取り上げるのも大変だが、それだけ貿易摩擦がアメリカの雇用に影を落としているということだ。なんとかしてあげよう。
■「強かった頃の日本」を体感できるゲーム
『ジャパンバッシング』の発売は1992年。日本ではバブル経済が崩壊して間もない頃だ。
しかし2021年よりもメイド・イン・ジャパンの存在感が大きかったのは事実である。いいものはみんな日本製、アメリカの若者は腕時計からクルマに至るまで日系メーカーのものばかりを買い求めた。
もっとも、日本の斜陽は『ジャパンバッシング』の発売年から顕著になっていった。かつては世界を席巻していた日本製半導体は、パーソナルコンピューター普及の流れに乗り遅れてシェアを縮小させた。さらに日本経済そのものが低迷期に突入し、90年代後半には巨大金融機関の破綻が相次いだ。山一証券も北海道拓殖銀行も、もはや存在しない。
今現在、アメリカと貿易戦争を繰り広げているのは中国だ。天安門事件以降の改革開放政策以降、中国は「自転車と人民服の国」から「世界一のIT産業立国」に変貌した。『ジャパンバッシング』の頃から約30年で、いや、実際はもっと短い期間で片方のプレイヤーが入れ替わってしまったのだ。
が、今の10代はこの流れを肌で体感していない。だからこそ、若者に『ジャパンバッシング』をやらせたらむしろ新鮮に感じてくれるかもしれない。そういう意味で、このゲームは「今だからこそ」の付加価値を有している。