■『風が強く吹いている』
2018年10月から2クールで放送されたテレビアニメ『風が強く吹いている』。三浦しをん原作の同名小説を読んだことがある人もいるのではないだろうか。正月の風物詩である「箱根駅伝」に、竹青荘、通称アオタケと呼ばれる寮に住まう10人の学生が挑む物語だ。
箱根駅伝はどんな強豪校も出場までに長い月日をかけ、それでも一握りの学校しか出場できない大学長距離陸上界の最高峰の大会だ。そんな大会に出場メンバーは最低出場資格の10人ジャスト、しかもそのほとんどが陸上未経験者の素人同然のチームが出るという物語はあまりにも無謀で現実離れしている。「こんなにうまくいくはずはない」と感じる人がいてもおかしくないだろう。
にもかかわらずこの作品が単なる「熱血スポ根」で終わらなかったのは、キャラクターの内面とアオタケの絆が深まっていく過程を丁寧に描いているからだ。
アオタケの面々は、家族や地元、自分への自信のなさなど、それぞれの心の中に葛藤や挫折を抱えている。そんな彼らは「アオタケのみんなで箱根駅伝を走る」という目標を共有し、「なぜこんなにも苦しい思いをしてまで走るのか」と自分に問い続けることで、自身の弱さと真正面から向き合うのだ。
最初は「無理だ」と言っていた面々が互いを知り、信頼し、導きあう関係を築き上げていく。そして最初は言い出しっぺの清瀬灰二(きよせはいじ)だけが信じていた夢が、みんなの夢になる。その過程に涙が止まらなくなること必至だ。
全23話中、箱根駅伝本番が描かれるのは19話から23話。アオタケの面々は自分が担当区間を走りながら、自身の内側と対話する。その走りの作画には、キャラクターそれぞれのバックグラウンドや人格がにじみ出ている。その描き分けにも、ぜひ注目してほしい。