現在放送中の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』で主人公のスレッタ・マーキュリーを演じる市ノ瀬加那。近年は『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』の荻原沙優役や『境界戦機』紫々部シオン役で活躍をしてきた彼女が挑む、新たな時代の『ガンダム』、そして主人公とは。役、そして作品の魅力を前後編で聞いた。
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「家で何回も自分の声を録音して練習しました」
――ガンダムシリーズ7年ぶりの新作TVアニメ、そしてガンダムシリーズのTVアニメとしては初めて女性が主人公となる『水星の魔女』ですが、本作の出演が決まったときはどんなお気持ちでしたか。
まるで夢を見ているような感覚で、信じられませんでした。一次、二次とオーディションがあったんですが、その中で“これだけの大作の主人公を、誰がやるのかな”と他人事のような気持ちにもなってしまっていたんです。もちろん自分がやりたいけど、そのぶん慎重になっていて…。だから、家で何回も自分の声を録音して練習していました。“ここはちょっと違うかも、あ、ちょっと近づいてきたかな”と、スレッタ・マーキュリーという役に自分を近づけていく作業を繰り返していましたね。自分にとっては奇跡のようなタイミングで、スレッタに巡り合うことができたなって思います。
――オーディションの段階で、スレッタ・マーキュリーという人物の理想像があったんでしょうか。
そうですね。台本を読んだときに、キャラクターの声が頭の中で再生されるんです。 でも、再生された声をいざ演じてみようと思っても、意外とギャップがあったりするんですよ。 今回だと、テンパり具合が少ないかな、とか、ここはもうちょっと落ち着いた方がいいかな、とか、そういうブレを録音して擦り合わせていく作業をしていましたね。
――市ノ瀬さんの中に、声優としてのご自分と、演出家としてのご自分がいるんですね。
確かにそうかもしれません。いろんな役をやらせていただいたことで、そういう理解がちょっとずつ深まってきたのかなって感じます。まだまだですけれど…。
――実際にアフレコが始まって、小林寛監督からはどんな演出があったのでしょうか。
まず、アフレコが始まる前に「スレッタを、一人の生きてる人間として演じてほしいです。」とお話しいただきました。そして、可愛く演じようとしなくていい。この子たちは普通に生活して、食べて寝て、トイレもすると思って演じてください。」というようなことを話していただいたので、リアリティを優先したお芝居を大切にしたいと思いましたし、むしろ情けない部分を出していいんだと感じたんです。例えば、びっくりしてるシーンは、普通だったら、可愛く演じることも多いですが、スレッタならではの情けないところをあえて出してみたりしました。
――自然体のお芝居が求められているんですね。
他のキャストの方々も、ナチュラルなお芝居をされている印象です。私自身としても、現実の世界のどこかにいそうなキャラクターとして、スレッタを演じたいなって思っています。