青春への懐かしさを感じさせる大島ミチルの音楽にも注目
――本作にはタイムマシン＆タイムパラドックスというＳＦ要素がありますね。壊れたクーラーのリモコンを救うため、そしてタイムパラドックスを回避するため、「私」たちが昨日と今日を行ったり来たりするわけですが、小説と違って読み返せない映像作品でこの複雑なストーリーを描くには、かなり難しさがあったのではと思います。
確かにこの話は、行ったり来たりが複雑なんですよね。時間の流れに出来事を緻密にはめ込んでいった、絶妙なバランスの上に成り立っている作品なので、そこはかなり気を遣いました。現場でも、時間を細かく区分したキャラクターの香盤表を作ったりして、きちんと辻褄が合うように意識しましたし。でも、こういう複雑な設定ものって、全部を説明することは難しいと思うんです。難しいというか、設定だけ説明されても退屈になってしまう。だからきっちり作りつつも説明しすぎず、流れの中で「あ、これはやったらマズかったのか」「これはいいんだな」とわかるよう、雰囲気で伝えることも大事にしました。
それにＳＦ要素もあるけれど、この作品は「四畳半」のキャラクターの群像劇であり、「私」と明石さんの関係性を描く青春恋愛劇でもあるので、その辺りのバランスはかなり意識しました。細かい説明をしすぎないように、でも「解決したんだな」とわかるように。きっと観返していただくと徐々にわかる部分もあると思うので、できたら何度か観ていただけると嬉しいですね。あと劇場パンフレットに劇中の出来事の時系列が載っているので、そちらを読んでもらえるとすっきりすると思います。
――ではまずは予備知識なしで観て、パンフレットで時系列を確認し、そしてもう一度観直す……というのがお勧めですね。ＳＦ要素以外で、監督がぜひ注目してほしいというポイントはありますか。
やっぱり「私」と明石さんの関係性ですね。「四畳半神話大系」から一歩進んだ感じがあるので、そこは大事に描いています。あとは大学生の夏休みというところ。映画サークルで映画を撮るって、すごくいいシチュエーションじゃないですか？ 大人になってしまったら取り戻せない青春だと思うんですよね。そういう青春への懐かしさというのは、多くの方が感じるんじゃないかと思います。
特に、最後に「私」や明石さんが話す内容は、学生の主観というよりは作り手側の主観に近いように思えて、すごく共感できました。「四畳半神話大系」に続いて音楽は大島ミチルさんにお願いしたんですが、フィルムスコアでシーンに合わせて作ってもらったんです。その音楽がラストの抒情性をより盛り上げてくれて、とても素敵なシーンになっていると思うので、ぜひその雰囲気を楽しんでもらえたら嬉しいです。
【PROFILE】
夏目真悟 なつめ・しんご
青森県出身。ゲームグラフィッカーからアニメーターへ転身した後、J.C.STAFF、ゴンゾ、シンエイ動画、フリーのアニメーターを経て、TVアニメ「スペース☆ダンディ」（14年）で監督デビュー。その後、「ワンパンマン」（15年）、「ACCA13区監察課」（17年）、「ブギーポップは笑わない」（19年）などで監督を務めている。監督・脚本・原作を担当したオリジナルTVアニメ「Sonny Boy」（21年）は、第25回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。「四畳半神話大系」（10年）では第6話の絵コンテ・演出を、『夜は短し歩けよ乙女』（17年）では夏パートの絵コンテを担当。
作品情報
『四畳半タイムマシンブルース』
9月30日（金）より3週間限定全国ロードショー
ディズニープラスにて独占配信中
（配信限定エピソード含む全６話順次配信）
【キャスト】
浅沼晋太郎 坂本真綾 吉野裕行 中井和哉 諏訪部順一 甲斐田裕子 佐藤せつじ 本多 力（ヨーロッパ企画）
【スタッフ】
原作：森⾒登美彦・著、上⽥誠・原案 『四畳半タイムマシンブルース』（角川文庫／KADOKAWA 刊）
監督：夏目真悟 脚本：上田 誠（ヨーロッパ企画）
キャラクター原案：中村佑介 音楽：大島ミチル
主題歌：ASIAN KUNG-FU GENERATION 「出町柳パラレルユニバース」（Ki/oon Music）
アニメーション制作：サイエンスSARU
製作：「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会
配給：KADOKAWA／アスミック・エース
【公式ホームページ】https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/
【公式Twitter】https://twitter.com/4andahalf_tmb
©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA／「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会
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