四畳半タイムマシンブルース
©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

文学好きに高い人気を誇る小説家・森見登美彦の原作を、アニメーション界の鬼才・湯浅政明監督が映像化したTVアニメ「四畳半神話大系」。2010年に放送されたこのアニメで脚本を担当した上田誠(ヨーロッパ企画)による、青春SF戯曲の傑作『サマータイムマシン・ブルース』。一癖も二癖もあるこの2作品が悪魔的融合を果たしたアニメ『四畳半タイムマシンブルース』が、9月30日より全国劇場にて3週間限定公開中だ(「ディズニープラス」にて独占配信中)。

物語の舞台は酷暑の京都。大学生が暮らすおんぼろアパート下鴨幽水荘にタイムマシンが現れたことで巻き起こる、宇宙消滅の危機を救う(?)ドタバタ劇だ。悪友・小津(CV.吉野裕行)と自由奔放な先輩たち、ポンコツ映画作りに情熱を注ぐ明石さん(CV.坂本真綾)、そして振り回される主人公の「私」(CV.浅沼晋太郎)。彼らによる、不毛すぎるのに不思議と後味爽やかな青春群像劇を手掛けたのが、「四畳半神話大系」にも参加していた夏目真悟監督だ。

本作の劇場公開を記念して、夏目監督にインタビューを敢行。「四畳半神話大系」の思い出から、SF要素が加わった本作ならではの難しさなど、様々な話を伺った。(前後編)

 

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「ずっとやっていたかった」ほど楽しかった「四畳半神話大系」

©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

――夏目監督は「四畳半神話大系」でも演出として参加されていましたが、今回『四畳半タイムマシンブルース』に監督として携わることになった経緯や、そのときのお気持ちを教えていただけますか。

 

サイエンスSARU(『夜は短し歩けよ乙女』『犬王』などを手掛けるアニメ制作会社)社長のチェ・ウニョンさんに呼ばれて、「『四畳半タイムマシンブルース』をアニメ化したいんですが、監督をやりませんか?」と言っていただいたのがきっかけでした。元々ウニョンさんもアニメーターとして「四畳半神話大系」に参加されていたので、自分も近くで作業していたんです。自分もウニョンさんも湯浅監督が好きで、一緒に監督の下で仕事していたので、そのウニョンさんから声を掛けていただけたのがすごく嬉しかったですね。また「四畳半神話大系」と同じ座組で仕事ができることも嬉しかったですし。

TVシリーズの「四畳半神話大系」って、すごく楽しい作品だったんですよ。終わったときには本当に寂しくて、「ずっとやっていたかった」と思ったほど。森見さんの小説が原作で、湯浅さんがアニメの世界観を作ったという、とにかくクオリティや完成度が高い作品でしたから、作っていてとても楽しかったんです。

 

――「四畳半神話大系」は具体的にはどんなチーム、どんな現場だったのでしょうか。

 

湯浅さんは映像の表現に対する自由度が高いんです。いろいろな方法論や表現の仕方を許容してくれる、というんでしょうか。それもただ許容するだけじゃなくて、若い演出家が自由にやっても破綻しないよう、芯になるコンセプトや世界観がしっかりと作られているので、こちらとしても安心感がありました。そして今にして思うと、現場にいた方々がとても豪華なメンバーで刺激的だったんですよね。僕はこの作品が初演出で、たくさんのものを吸収できた現場だったので、それもあって深く印象に残っています。

 

©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

――その刺激的なメンバーが再び集まって、本作が作られたんですね。原作小説を初めて読まれたときはどんな印象でしたか。

 

原作を読んで感じたのは、懐かしさです。「あ、あのキャラクターたちが帰ってきた」という感覚。そして、森見さんが「四畳半神話大系」を書いてから『四畳半タイムマシンブルース』を書くまで15年の間があったわけですが、読んでいてその時間の経過が感じられて、そういう部分にも魅力を感じたんですよね。キャラクターが15年前に取り残されていたわけではなくて、いま現在の雰囲気を森見さんが意図的に表現していると感じられて、そういうのがすごくいいなあと。自分の個人的な意見ですが、やっぱり書き手や作り手は歳を取りますよね。前作から10年以上が経っていて、森見さんご自身も変化されているでしょうし、それはどうしても作品に影響する。そういう作者の変化が現れた部分を丁寧に汲み取りたいなと、読みながら思いました。

 

――TVシリーズが放送されたのは12年前ですから、例えば学生だった方が社会人になったり家庭を持ったりと、視聴者もきっと変化しているでしょうし。

 

そういう意味で、作品の変化を丁寧に描くことで共感が生まれるのかなと思いました。きっとこの作品は、「四畳半神話大系」を観ていた方が懐かしさを感じるという、ファンムービー的な側面も強いと思うんです。自分は原作を読んだときにそう感じたので、そこは大切にしたいなと思って、絵的な入口は極力TVシリーズを踏襲していこうと考えました。なので映像的、演出方法的には「四畳半神話大系」をなぞりつつ、10年以上が経過している変化はしっかり描こうという方向性でしたね。

 

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