上村祐翔×浅沼晋太郎クロストーク「挫折の傷はかさぶたになる」/弓道アニメ『劇場版ツルネ -はじまりの一射-』インタビュー(後編)の画像
©綾野ことこ・京都アニメーション

2018年にTVアニメが放送され、京都アニメーションによる圧倒的映像力で、多くのアニメファンを魅了した『ツルネ』。本作が新たに『劇場版ツルネ -はじまりの一射-』となって公開された。

小学生の頃から弓道を始めるも、中学最後の試合で「早気」にかかり、あることがきっかけで、高校で再び弓道部に入部する鳴宮湊(CV.上村祐翔)。そして、凄腕の射手ながら、誰よりも尊敬していた師を憎み、美しく弓を引く、弓道部のコーチ・滝川雅貴(CV. 浅沼晋太郎)。彼らが互いの「弦音(つるね)」に惹かれ、仲間たちと絆を深めて、「弓の道」と対峙していくTVアニメ『ツルネ』。本作が、新たなエピソードを盛り込んで劇場版として生まれ変わる。

今回は、鳴宮湊と滝川雅貴(マサさん)を演じた上村祐翔と浅沼晋太郎に、作品の魅力はもちろん、お二人の「はじまりの一射」=ルーツを聞くインタビューを敢行。前編に続き、互いの仕事論などもクロストークで語りあっていただいた。


前編はコチラから!

 

※ ※ ※

 

“30歳でデビューした僕にはどんな戦い方が残されているんだろう”と考えてきた

ツルネ
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――本作を経て、声優としてのお互いの魅力をどんなところに感じますか。

 

上村 答えるのが恥ずかしい質問ですね…(笑)。浅沼さんとはTVシリーズで初めてお会いして、またこうして湊とマサさんとして再会したんです。その中で、浅沼さんっていろいろな役を演じられていて、いろいろな声色を持ってらっしゃる方だということをすごく感じました。僕としてはやっぱりマサさんの印象が強いのですが、浅沼さんは深みがある、積み重ねてきた経験が、役として作らずとも声に乗る方で、すごく頼りがいがあるし、魅力的だなと思っています。

 

浅沼 直接隣で聞くとやっぱり恥ずかしいですね(笑)。僕の場合、芸歴でいうと、上村くんのほうが先輩なんですけど、僕には上村くんの湊のような「奇を衒わない真っすぐさ」というのがないんです。そもそも僕は30歳で声優としてデビューして、“この先、声優の仕事が続られるのであれば、遅すぎるデビューをした僕にはどんな戦い方が残されているんだろう”と考えてきた人間。だからとにかくトリッキーにやってきたんです。そんな自分からしたら、上村くんは僕にないものをたくさん持っているなと感じているし、すごく憧れますね。……やっぱり恥ずかしいから、これ以上はメールで伝えさせてください(笑)。

 

――ありがとうございます(笑)。まさに本作の湊とマサさんに繋がる部分を感じます。お二人のお仕事の「原点」もお聞きしていきたいのですが、湊にとってのマサさんのように、これまでに声優の方で、憧れのような気持ちを抱いた方はいますか。

 

浅沼 そもそも僕は声優を志したというより、ひょんなことからここに流れ着いた人間なんです。だから振り返ってみたら、意図的に向き合ったというよりは、向き合わざるを得なかったんだと思うんです。そんな中で憧れた役者さんは、30歳でデビューしたときに共演させていただいた神谷浩史さんと吉野裕行さん。このお二人は、ずっと尊敬しています。でも当時は、自分が声の仕事をここまで続けられるとは全く想像していなかったので、憧れることすらおこがましい、と思ってましたね。

 

上村 僕も子役からお芝居をさせていただいて、こうして声優のお仕事をメインでやらせていただいている中で、明確にこの人に憧れて…ということがないんです。ただ、お仕事を続けるうえで尊敬するのは、同じ事務所の先輩でもある宮野真守さんです。僕が初主演をさせていただいたアニメで初めてご一緒して、その時に役への向き合い方や現場での姿勢であったり、いろんな言葉をいただいたので、僕もそういう人でありたいなと思います。最近は僕より下の世代もいますから、あのときの宮野さんと同じようには伝えられずとも、 自分が現場を楽しむことで“お芝居は楽しいよね”というのを自分なりに後輩に見せられたらなというのは感じています。

 

ツルネ
©綾野ことこ・京都アニメーション

――なるほど。お二人は湊やマサさんのように挫折を感じたことはありますか。そして、それをどのように乗り越えて来ましたか。

 

浅沼 もう挫折はしょっちゅうですね(笑)。1クールに一回はそういう気持ちになってます……。

 

上村 僕もそうですよ(笑)。

 

浅沼 だから、正直乗り越えられたのかどうかも分からないんですよね。次の仕事に向き合うことで、気付くとその傷がかさぶたになっている。それが剥がれて、すぐに血が出そうな状態のことも多いんです。しかも、乗り越えられていないまま、次の仕事が来ていることも少なくなくて、もう騙し騙し…(笑)。つまり、明確に“乗り越えたぞ!”という経験が、ほぼないと言っていいんじゃないかと感じます。いまだに苦手なものは苦手ですから(笑)。もちろんどんなお仕事も、必死に一生懸命取り組むんですけど、 “やっぱり俺は向いてないなあ”と思う瞬間はしょっちゅうあるし、ただ単に、僕はあらゆることの乗り越え方が下手なのかもしれませんね。

 

上村 いまの浅沼さんのお話は、すごく分かります。明確に“これでこの件、終わりです”という実感が僕らの仕事にはないんです。だからこそ、辛い思いや挫折など、すごくネガティブなものが、自分の中に重しのようにあって、しばらくはそれがずっと続く。でも、日々さまざまなお仕事がある中で、何を求められるかは現場によって全然変わってくるものでもあって……。そういう重しがある中でも、仕事を続けていくことで、急に重しがなくなる瞬間があるんです。多分、重しに意識が囚われすぎていて、視野が狭くなっていたからなんですよね。逆にいろいろなことをやると、視界が広がっていく。結局、この仕事はそういうことの繰り返しなんだろうって思います。僕も意識的に何かを乗り越えられたことはないですが、そういうふうに重しを抱えている仲間がいっぱいいるから、自然と助け合えているんじゃないのかなとも思いますね。

 

浅沼 やっぱり僕も誰かの支えがあったから、苦手なものと向き合い続けられてるんだと思います。一人では絶対に挑戦できないことばかりでしたから。

 

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