「ピンクの髪の毛の子だからって、可愛くなくていい」(寿)
その後、寿さんからは「オーディションの時に、ピンクの髪の毛の子だからって、可愛くなくていい。今のあなたの持っている声でトライして欲しい」と富野監督から言われたことが語られると、富野監督は「『G-レコ』では、女性キャラクターはメインキャラクターから裁縫をしているおばさんまで、全部きちんと選んでいます。“可愛いければいい”というようなものは全部外しました。それは、男の目から見て女性全員が、男が好きなタイプの人間じゃないわけ。そういう女性がいてくれるから次から次へと世代が繋がっていったということを、『そろそろ男たちはわかれ!』と思っていたし、それが作品を通してわかるような物語にしたんです」と作品世界の人物の描き方のこだわりにつながる話を披露。
佐藤さんは、テレビシリーズでの最終話でのエピソードとして「ルインが最後、ズタボロに負けた後になぜあんなに清々しくいられるのかを考えていたんですが、劇中でルインにマニィがスープをくれるんですよね。それと同じように、マニィ役の高垣彩陽ちゃんが僕に、スタジオの自販機で買ったコーンスープをくれて。その時に、あれだけ全力でやって負けてしまっても、今、隣にいる人が温かいものをくれる現実が何より幸せなことなんだな、と思ったら、あのラストが素敵だと思えたし、“隣にいる人の力って凄い”と思いました」と、収録時のエピソードも交えた思い出を語ってくれた。
石井はベルリ役に挫折しかけていたときも
最後は石井さん。「作品に関わるきっかけになったのはやっぱりオーディションで。芝居をする以上、キャラクターのことを考えたり、こちらでキャラクター性をある程度決めてオーディションに挑むんですけど、準備万端整えて、監督の前で“どうだ!”とやってみたら“芝居をしなくていいから”って言われて。その時が一番ビックリしましたね。芝居をしなくていいというのは何だろう? と、本当に思ったんです。何が正解か判らないままオーディションに受かって、第1話の収録に行ったら監督から“腹から声を出せ!”と言われてパニックだったのを覚えてます。その後は、富野さんと演出の話はしていないのですが、ずっと見守ってもらっていた感じですね」と思い出を語ったあと、監督に対し「僕の印象はどうでしたか?」と質問。
富野監督は「細かく説明しようとすると、演技論やキャラクター論になるのでやめます。ただ、“こういうのがベルリなんだろうな”という声質のマッチングの問題があって、この人はまだ素人なんだろうけど、これくらいまで発声できるとか、演技を組み立てることを覚えていくかもしれないというのは、何となく想像できたので最後までやってもらいました。ただ、途中で一度辞めさせようかと思った瞬間も、実はありました。それは僕の方の理由ではなくて、石井さんが勝手に辞めたがっていたという事件もありました」と石井さんとの関わりや思いを語った。
石井さんは首を横に大きく振りながらも「自分の中で作品を通した中で思うところがあって。一時期ものすごくネガティブになってしまっていて、“自分には務まらないんじゃないか”とか、“これ以上自分はもう何もできないんじゃないか”と思ったこともありました。それで、一時期現場に行くのが怖かったんですよね。でも、キャストの皆さんに応援していただいて、何がきっかけという感じではないんですが、ガラっと自分の中で何かが切り替わって。それが劇場版第3部くらいに、手探りながら自分の中で“変わったな”という自覚があったんです」と、途中でベルリ役を挫折しかけていた、当時の気持ちを振り返った。
それに対して富野監督は「彼がそのような感性を持っているという期待をしていたから、迂闊に辞めさせるのを止めました。そして、やっぱりやらせてみるという決断に踏み切ることも、こちらの仕事としてあったのは事実ですね」と、石井さんの悩みに向き合った富野監督の思いも改めて語られた。
「次の新しい時代を切り拓くような活躍に期待」(富野監督)
最後は富野監督へ「制作作業が終わり、時間が出来たなかでやってみたいことはありますか?」という質問が。それに対して富野監督は自身の足腰が弱ってしまったので無理だとしながらも「世界一周旅行です」と答えた。
「最後のシーンの舞台になっているアマゾンの上流とギアナ高地は、行かなければいけないと思いながら行くことができなかった。だから、本当の空気感を知らないで作ってしまったという意味で、作品に“穴”が空いてしまっているはずなんです。その部分が本当に悔しい。物を作りたいという人間は、やっぱり世界一周旅行くらいしておかなければいけないという反省があります。僕はもうできなくなっていますが、これから皆さん方は、まだ身体が使えるうちに世界旅行をしてください。それは、あなたの人生の上で損はしません。人というのは日本列島から見るだけではない、さまざまな形があるので、そういうものから出てくる物語はまだまだいっぱいあると思います。だから皆さんには、そういう経験をしていただけるとありがたいです」と、監督のやりたいことへの質問は、最終的には会場にいるファンへの強いメッセージとなった。
ここで、盛り上がった舞台挨拶も時間となり、最後に代表して富野監督から挨拶が行われた。
「本当にこんな天気になってしまって申し訳ないです。晴れ男を自認しているんですが、台風を除けることはできませんでした。これ以後は、先ほども言った通りです。皆さん方の中から、次の新しい時代を拓くような作品を作るなり、そういう仕事をなさっていただけることを期待します。そのためには『Gのレコンギスタ』という作品が、おそらく無駄ではなかったんじゃないかと思える自惚れもあります。その自惚れもあるからこそ、今日こういうところにも恥ずかしくもなく立っております。今後は、もう皆様方の時代ですので、皆様方の次の新しい時代を切り拓くような活躍に期待いたします。本日はご来場いただきまして、ありがとうございます」
富野監督が次の時代に期待をかける熱いメッセージがファンに語られる形で、舞台挨拶は幕を閉じた。
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<作品情報>
劇場版『Gのレコンギスタ Ⅴ』「死線を越えて」
2022年8月5日(金)より公開中
【メインスタッフ】
総監督・脚本:富野由悠季/原作:矢立 肇、富野由悠季/演出:吉沢俊一/キャラクターデザイン:吉田健一/メカニカルデザイン:安田 朗、形部一平、山根公利/デザインワークス:コヤマシゲト、西村キヌ、剛田チーズ、内田パブロ、沙倉拓実、倉島亜由美、桑名郁朗、中谷誠一/美術監督:岡田有章、佐藤 歩/色彩設計:水田信子/ディスプレイデザイン:青木 隆/CGディレクター:藤江智洋/撮影監督:脇 顯太朗/編集:今井大介/音楽:菅野祐悟/音響監督:木村絵理子/企画・制作:サンライズ/製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス/劇場版『Gのレコンギスタ』テーマソングアーティスト:DREAMS COME TRUE
【メインキャスト】
ベルリ・ゼナム:石井マーク/アイーダ・スルガン:嶋村 侑/ノレド・ナグ:寿 美菜子/マスク:佐藤拓也/クリム・ニック:逢坂良太/マニィ・アンバサダ:高垣彩陽/ラライヤ・マンディ:福井裕佳梨/ミック・ジャック:鷄冠井美智子/バララ・ペオール:中原麻衣
【イントロダクション】
原作&脚本&総監督&脚本・富野由悠季による『Gのレコンギスタ』。そのTVシリーズ26話を再編集した劇場映画の全5部作がついに完結を迎える。
「宇宙世紀」の先にある時代「リギルド・センチュリー」を舞台にした本作は、富野由悠季が描いてきた戦争と若者たちの物語を結実させた作品に他ならないが、同時に富野が自身を<Reconquista(再征服)>かつ<Renaissance(再生)>させたネクストステージ作品ともなった。
監督業50年を凝縮させた結晶が今、新たな飛翔を見せる!
【Ⅴ ストーリー】
ベルリたちを乗せたメガファウナが、ジット団を追ってビーナス・グロゥブを出発。だが、すでに地球圏の戦況は一変していた。大気圏外で睨み合っていたキャピタル・アーミィとアメリア軍、ドレット艦隊は、禁忌の存在であるカシーバ・ミコシの近傍でさらに激しく衝突を繰り返す。その渦中で、ベルリは戦争が生む悲劇や憎しみを取り除きたいと想いを巡らせ、人類の危機を知った姉アイーダは新たな時代に目を向ける。が、キャピタル・アーミィがジット団と共闘し、メガファウナがもたらした新戦力で増強されたアメリア軍がドレット艦隊と手を結んだことで宇宙戦艦をも沈める驚異のモビルスーツ群が次々と戦場に投入される。激化し、無数の人命を飲み込んでいく宙域。そして、各勢力は地球の重力に引かれ、最終決戦は大気圏内へ。大地に立つG-セルフは今、ベルリを長い長い旅路の終わりへと導かんとしていた……。
【公式サイト】http://www.g-reco.net/
【Twitter】https://twitter.com/gundam_reco
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