『クレヨンしんちゃん』には高度な笑いが詰まっている
――また今回は、プロの芸人さんから見た『クレヨンしんちゃん』の笑いについてもぜひお伺いしたいのですが。
澤部 『クレヨンしんちゃん』に出てくるギャグやダジャレは、内容的に“このギャグは、きっと大人に向けて言っているよな”と思うところがたくさんあるんです。“果たして、子どもがこれを観て笑うのかな”と思う瞬間があるのですが、家で観ていると、子どもたちがめちゃくちゃ笑って観ているんですよね。だから、内容で大人を笑わせて、表情や動きや間合いで子どもを笑わせている。この両方を同じ熱量でやれるのは、非常に高度だと思います。
岩井 しんちゃんは果敢ですよね。たとえウケなくても、何発もギャグを出しますし。僕らはしんちゃんみたいな突き抜けた人間じゃないから(笑)、芸を披露しているときに、必死ななかにもどこかでふと我に返ってしまうことがあるんです。でもしんちゃんは、そんなことを一切考えず、矢継ぎ早にギャグを言って、どんなリアクションが来ようがお構いなし。そういう鉄のハートを持っているんですよね。
澤部 たしかに。それに、風間くんのツッコミもめちゃくちゃ速いし、ツッコみどころも本当にちょうどいいんだよね。
岩井 風間くんは頭がいいから、視点が鋭いんです。
――同じギャグで何十年も観る人を笑わせ続けているって、すごいことですよね。
澤部 確かにそうですよね。
岩井 ギャグの種類には、全く意味のないものもありますが、『クレヨンしんちゃん』のギャグは、それとは種類が違いますから。ちゃんとフリがあって落ちているという、意味があるギャグなんです。作品を良く観てみると、その前後の意味合いを感じられて、感心してしまうんです。「深いな」と。
――呼吸をするようにギャグを言うしんのすけは、お笑いのネタを作る側から見てもうらやましいですか。
岩井 そうですね。まあ僕はギャグはやらないですが、しんちゃんのギャグはキャッチーでいいなとは思います(笑)。
――ツッコミ担当の澤部さんから見てどうですか。
澤部 しんちゃんのギャグやダジャレは、あくまでも会話のセリフの一環。会話のアドリブとして出てくるので、そこに果たして僕はツッコミとしてついていけるのかっていう疑問があります(笑)。
岩井 ついていけないかもしれないと(笑)?
澤部 そうですよ。そのくらいスピードがあるので、しんのすけにツッコむには、それなりの反射神経が必要ですよ。その点においても、しんのすけのギャグをひとつも逃さない風間くんのツッコミ技術には感心しますね。
――一見、意味がなさそうで、実は練られたギャグが作品には潜んでいるんですね。また、劇場版作品は、ギャグ以外にも、毎回、家族の絆を感じさせるエピソードも多いです。今作でも、離れた家族を思うしんのすけの切ないエピソードがあります。あらためて『もののけニンジャ珍風伝』の魅力を教えてください。
澤部 普段、当たり前のように目の前にいる家族への愛なんて、なかなか考えないものですよね。今作では、「しんのすけが野原家の息子じゃない」という衝撃のエピソードから始まり、家族と離れて忍者の村で暮らしますが、しんのすけがとーちゃんとかーちゃん、ひまわり、シロと家族のことを想うシーンがあって。それを観てジーンとしちゃってね。あらためて自分も家族について考えました。
岩井 お子さんがいる人は、当たり前になりますからね、家族がいることが。僕もこの映画を観て、息子が生まれたときのことを思い出しましたけどね。
澤部 ね……って、子どもいないでしょ?
岩井 そうだっけ。
澤部 取材の最後に作品の魅力を語るときに、嘘をつく人ってあまりいないよ! 声優MENさん、ごめんなさいね!
岩井 冗談です(笑)。『クレヨンしんちゃん』の世界の中で漫才ができるというのは、芸人としてもすごいことで、我々のひとつのゴールだと思っています。とにかく、これが昨年のМ-1以来となる初の新作漫才なので、ぜひ劇場で観てもらいたいですね。
澤部 よろしくお願いします!
次回『クレヨンしんちゃん』特集は、野原しんのすけ役・小林由美子さんのインタビューを掲載予定。お楽しみに!
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ハライチ
ボケ担当の岩井勇気(いわいゆうき)、ツッコミ担当の澤部佑(さわべゆう)からなるお笑いコンビ。ともに1986年生まれ、埼玉県出身で、幼稚園からの幼馴染み。2006年にコンビを結成し、ワタナベエンターテインメントに所属。09年のM-1グランプリにて初の決勝進出をして注目を浴びる。昨年のM-1グランプリでも決勝進出を果たした。レギュラー番組にテレビ「まんが未知」(テレビ朝日系)、「なりゆき街道旅」(フジテレビ系)、ラジオ「ハライチのターン!」(TBSラジオ)、ネット配信番組「ハライチのYAMi」などがある。
INFORMATION
■タイトル:映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝
■原作:臼井儀人(らくだ社)/「月刊まんがタウン」(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
■監督:橋本昌和
■脚本:うえのきみこ、橋本昌和
■製作:シンエイ動画・テレビ朝日・ADKエモーションズ・双葉社
■声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ ほか
■ゲスト声優:川栄李奈、ハライチ
■主題歌:緑黄色社会「陽はまた昇るから」
■公開日:4月22日(金)
■コピーライト:©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2022
公式サイト:https://www.shinchan-movie.com/
ある日、屁祖隠(へそがくれ)ちよめという女が、野原家を訪ねてきた。ちよめは、自分がしんのすけの本当の母親だと告白する。その夜、突然忍者が野原家に忍び入り、寝ているしんのすけを連れ去ってしまう。しんのすけが連れて行かれたのは、忍者だけが暮らす忍びの里だった……。その里には「地球のへそ」があり、屁祖隠家が「もののけの術」でエネルギーが漏れ出ないようにへその栓を代々守ってきたという。もしも栓が抜けたら、エネルギーが漏れ出し、地球は枯れ、自転が止まり、世界の明日は失われてしまう……。屁祖隠の名を継ぐ「屁祖隠しんのすけ」は、果たして地球の未来を守れるのかーー!?