小沢かなの漫画『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』が企画発足から6年をかけて、ついにアニメーション映画になった。
グライダーに青春をかける、空に恋をした航空部の大学生たちを描く青春ストーリーの主人公は、都留たまき。彼女が大学への入学早々、航空部のグライダーを傷つけてしまい、雑用係として働くことになってしまうのだ。しかし、彼女は主将・倉持の操縦するグライダーに乗せられて、「空の世界」に魅了され、思わぬ才能も開花させていく……。
本作の演出を手掛けたのは『ばらかもん』、『プリンセス・プリンシパル』シリーズで知られるアニメーション監督の橘正紀。第2回の今回は声優陣や、『ブルーサーマル』の魅力をお聞きしながら、監督の映画の原体験にもスポットを当てた。
※ ※ ※
「女性スタッフの間では空知のほうが人気でした」
――今回は声優の方々についてお話をお聞きしていきます。まず、主人公の都留たまきを女優の堀田真由さんに決められた理由をお教えください。
今回、俳優さん、声優さんに関わらず素朴な感じが出せる方にお願いしたいとオーディションをしたんです。そのときに、たまきの飾らない感じや、オーディションをした際の芝居の反応がすごくよかったんですね。例えば、アニメでは、実写と同じ芝居をすると絵に負けちゃうのですが、そういうところのバランスやこちらからのフィードバックを実践するのがうまかったんです。その後、堀田さんが、普通の声優さんのような声の張り方をしない芝居でしたので、それに合わせてナチュラルな芝居の方をオーディションで集めました。
――なるほど。そのたまきが憧れる航空部の主将の倉持、たまきといがみ合いながらも成長を見守る2年生の先輩・空知も魅力的でした。彼らを演じたお二人についてもお聞かせください。
島﨑信長さんが演じた倉持は母子家庭だけど、グライダーの才能があって、彼を支えてくれる人間もいる男。だけど、責任感ゆえに何に対しても重荷を負う、特殊なキャラクターなんです。それを島崎さんが丁寧かつ深みのある形で、陰がある彼をフラットさに演じてくれました。
――一方、榎木淳弥さんの空知はいかがでしたか?
榎木さんは、空知とたまきとわちゃわちゃと喧嘩するシーンなど、彼の子どもっぽさをリアルに演じてくださり、素晴らしかったですね。空知は、倉持に憧れている人なんですよね。でも、倉持は自分と一緒に飛ぶと、空知のピュアさを汚してしまうと思っている。それを理解できない空知は、妬みもあったり、少し子どもというか、わかりやすいキャラ。なので、スタッフの女性陣からは空知のほうが人気が高かったです(笑)。
――意外ですね(笑)。
倉持は自分で思い詰めると、どこかに行ってしまい、周りを不幸にする可能性がありますよね(笑)。でも、そこが彼のほっとけない部分でもあると思うんです。
「グライダーをもうひとつの主役として描きたいと思った」
――そして、なんといっても空の映像は見惚れるばかりです。
季節感を空の形や色で出したいと思っていたので、美術監督の山子(泰弘)さんとずっとお話しました。たとえば、夏の入道雲や、秋の薄い雲などですね。あとは季節ごとに土手の植物の種類なども書き分けています。四季折々の変化とか日本人ゆえの見慣れた景色をどう描いていくかを大切にしましたし、光の色味も季節や、朝焼けや夕焼けなどで全てを変えて、美術スタッフ全員が力を入れてくれています。
――監督が今回のアニメ作りで大切にされたことは?
受け入れられやすい柔らかなタッチを大事にしました。今回テレコム・アニメーションフィルムさんというスタジオで作らせていただいたのですが、『ルパン三世 カリオストロの城』などのスタジオで、レジェンドの方々が参加してくださったのも嬉しかったです。僕はジブリ作品に影響を受けて育ってきた世代でもあるので、今回は、宮崎(駿)さんの作品のような絵の素朴さを大事にしたいと思いました。
――彼らの青春を見つめる、グライダーの存在感も素晴らしかったです。
グライダーをもうひとつの主役として描きたいと思ったんですよね。人物はもちろんですが、グライダーに対しての愛情を絵で表現したかった。そこで、全て手書きで書いているんです。グライダーはシンプルすぎて CG にすると単調になってしまう懸念がありました。そこは素朴に絵で書いたことによって見る人の心に残ってほしいし、魂はちゃんと画面に入るんじゃないかなと。スタジオのスタッフは大変だったと思いますが、みんながいい映画にしようと支えてくれたことで、素晴らしいフィルムになりました。