「ブルーサーマル」とは「青空のもとで発生する上昇気流」のこと。本作は上昇気流で空を飛ぶグライダー競技に青春をかける、空に恋をした大学生たちを描いたストーリーだ。
主人公の都留たまきは、普通の大学生活に憧れ、長崎から上京した大学生。しかし、入学早々、「体育会航空部」のグライダーを傷つけてしまい、雑用係として働くことに。思い描いていたキャンパスライフとはかけ離れた現実に不満を抱く彼女だったが、部の主将である倉持の操縦するグライダーに乗せられて、「空の世界」に魅了されていく。
今回は本作の演出を手掛けた、『プリンセス・プリンシパル』シリーズで知られる橘正紀監督にインタビューを敢行。「青春×グライダー」の異色のアニメーション映画への想いを聞いた。
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「滑走路の“何もなさ”をどう描こうか考えました(笑)」
――最初に原作を読まれたときの印象はいかがでしたか。
爽やかな作品だと思ったのと、グライダーという題材が珍しいと思いました。また、たまきと航空部の主将の倉持、先輩の2年生・空知の三角関係がどうなるのか、ドキドキしながら読んでいましたね。とはいえ、グライダーのことは全く知らなかったので、この作品を手掛ける過程でいろいろ調べていきました。
――そのリサーチの中で、どんな発見が?
まず、日常の中で目の前でグライダーが飛ぶのを見る瞬間がなかったので、生で見たときは単純に驚きました。グライダーはワイヤーで巻き上げて、凧のようにして飛び立つのですが、角度が45度くらいですごい迫力でした。
あとロケハンでは、埼玉県の妻沼(熊谷市)の滑空場に行ったのですが、第一印象はただ広くて何もないということでしたね(笑)。ピストと呼ばれる無線機や、みんなの荷物の置いているテントがあって、それだけなんです。あとは縦2キロ、幅100メートルくらいの延々続く野原の滑走路。これを映画でどう見せようか…と考えてしまいました(笑)。
――確かにモノがないのは、映像の監督としては辛いですね(笑)。
技術的な方法論として手前にモノをなめたり、様々な角度からレイアウトを考えるみたいな小手先のことがほとんど出来ないんです(笑)。それからはグライダーの監修で入っていただいた丸山(毅)さんに取材をしたり、機体の写真を撮らせていただいて、進めました。競技としてのルールも知りませんでしたから、具体的に調べていきましたし、物語を描くうえで、どこまでをフィクションとして描き、あるいはどこまでリアルを追い求めたほうがいいのか、その線を探っていったんです。
――実際に監督ご自身はグライダーで、空の魅力を感じられたりも?
ええ。僕は遊覧飛行で乗ったのですが、見た目より安定感があって、雲の上に乗っている感覚でした。やっぱりエンジンの付いてない乗り物で空を自由に飛べるというのはすごいですよね。日常で生活していると空気そのものを意識しませんが、空の気流や雲の層などをグライダーの中では、如実に感じました。