■「そして時々…愛してくれるの」に絶望
そして最後は、筆者がマンガを読みながら一番ヤキモキして身悶えた『僕等がいた』の山本有里。小畑友紀氏による『僕等がいた』は2002年から2012年まで『ベツコミ』(小学館)連載されていた、高校生の恋愛を壮大な規模で描いた物語。
同作のストーリーはかなり複雑。それゆえ「山本さん」を一概に非難できないというのが「イライラ」の理由である。山本さんは主人公・七美の恋人である矢野の元彼女の妹で、地味でおとなしい高校生。しかし、山本さんの姉は交通事故で亡くなっており、矢野は現在もこの暗い過去を引きずっていた。
中学時代から矢野に引かれていた山本さんは姉の死をきっかけに矢野と一度関係を持っており、「姉(元彼女)の死」という共通の闇を背負っている。そうした過去や紆余曲折がありながらもようやく結ばれた七美と矢野だったが、矢野が家庭の事情で上京をすることですぐに遠距離恋愛に。ようやく七美と再会した矢野は、明るかった以前とは別人のようになってしまっていた。
一筋縄ではいかないストーリーに、矢野と山本さんが七美の知らないところで同棲していたりと、山本さんの存在そのものがトラウマになっている人も多いのではないだろうか。特に、二人が同棲中の家に矢野の友人の竹内が現れたときに「(矢野は自分を)そして時々……愛してくれるの」というセリフには心がざわつかずにいられなかった。いや、心がざわつくどころではなく、実際にはマンガを手にしながら「あああああ……」と絶望にも似た嘆きがついこぼれてしまった。
ただし山本さんにも事情がある。美人で明るい姉に猛烈なコンプレックスを抱き、親は姉ばかりに優しく自分には虐待まがいの暴言を吐いて苦しめてくる。矢野がそんな山本の境遇に同情し、根底から突き放すことができなかったこともまた事実なのだ。
さまざまな事情が交錯し、くっついたり離れたり。全16巻にわたって描かれた恋愛模様には毎度イライラハラハラしっぱなしだった。山本さんという、イライラはしても全否定できない強烈なキャラクターは、今後、後にも先にも現れないだろう。
イライラするライバルキャラがいるからこそ主人公たちの恋愛が輝いて見える。作品に花を添えてくれる彼女たちには感謝したいが、絶対に自分の身近には現れてほしくないところ。(折田マカダミア)