■炭治郎の優しさが詰まった鬼との戦い
『鬼滅の刃』に登場する人食い鬼たちは、もともとは人間である。それぞれが鬼になるまでの物語があり、その理由に一読者として共感させられる部分も多い。
炭治郎は、鬼が人を殺すことは「許さない」と言いながらも、倒した鬼の心にも寄り添うような態度をしばしば見せる。そこがほかの鬼殺隊の剣士と炭治郎が大きく異なる点で、それがよく分かるシーンが那田蜘蛛山における戦いの中にもあった。
炭治郎にとって十二鬼月と呼ばれる強敵との初めての戦いとなった那田蜘蛛山編で、「下弦の伍」である白髪の少年鬼・累が登場。累は集めた鬼を無理やり“家族”と呼び、暴力と恐怖で支配していた。
累の「母」にされた母蜘蛛の鬼は、糸で操った人間や鬼を使って襲いかかるが炭治郎と伊之助のコンビネーションの前に追い詰められ、伊之助の技によって隠れていた場所まで突きとめられてしまう。
そして上空から飛来した炭治郎が「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」を繰り出そうとしたとき、母蜘蛛の鬼は「死ねば(累による暴力支配から)解放される」と死を切望し、日輪刀を構える炭治郎に向かって無抵抗のまま両手を差し出した。
その姿を見た瞬間、炭治郎は技を「水面斬り」から「伍ノ型 干天の慈雨(かんてんのじう)」に切り替える。「干天の慈雨」は斬られた者にはほとんど苦痛がない慈悲の剣撃で、相手が自ら首を差し出してきたときのみに使う技だという。
この炭治郎のとっさの判断で「干天の慈雨」で斬られた彼女は「優しい雨に打たれているような感覚」と言いながら、痛みのない穏やかな死を迎えることになる。そして炭治郎の真の優しさを悟った彼女は、死の間際「十二鬼月がいるわ 気をつけて…!!」と鬼でありながら助言を与え、炭治郎を気遣う言葉をかけていた。