自粛警察、マスク警察には『仮面ライダーオーズ』迷走した正義を描いた“神回”をオススメしたいの画像
画像は『仮面ライダーOOO(オーズ)』DVD第1巻より

「正義のためなら、人間はどこまでも残酷になれるんだーー」

 ウィズコロナの今年の夏は「自粛警察」や「マスク警察」といった、他人に行き過ぎた注意をする人たちの行動にも注目が集まっている。営業しているバーや居酒屋を見つけては「自粛してください!」と張り紙をしたり、マスクをしないで街を歩いている人を見つけては「マスクをしてください!」と注意をしたり。根底にはその人たちなりの「正義の心」があるのだと思うが、そんな人には『仮面ライダーOOO(オーズ)』(テレビ朝日系)の“神回”として名高い第21・22話を見てほしい。

 2010年9月から1年間にわたって放送された『オーズ』は“欲望”がテーマの仮面ライダーだ。主人公の火野映司(渡部秀)は、800年の封印から目覚めた怪人・アンク(三浦涼介)と協力し「仮面ライダーオーズ」となって戦う。アンクは正義感から戦うのではなく、単純に映司を利用しているだけ。映司も時にアンクと駆け引きをしながら、持ちつ持たれつの関係で戦うという点が特徴的だった。

 さて、オーズの敵であるグリードは、何らかの欲望を抱えている人間に目をつけて手下“ヤミー”にしてしまう怪人で、「有名になりたい」「腹いっぱい食べたい」「オシャレがしたい」「友だちに頼りにされたい」など、1年の間に街の人たちが持つあらゆる欲望が描かれた。

 そのひとつが第21話『バッタと親子と正義の味方』と第22話『チョコと信念と正義の力』で描かれた「世にはびこる悪い奴を懲らしめたい」というもの。

 この話でグリードに目をつけられたのは、司法試験に落ち続けている一児の父親・神林進(伊嵜充則)と、息子の隆(中西龍雅)。ゴミのポイ捨て、引ったくり、公共の場への落書き。そういった世の不条理に不満を募らせていた神林の“欲望”から生まれたのが、怪人バッタヤミーだ。どことなく仮面ライダーを思わせるデザインが、皮肉が効いていた。

「ひったくりを返り討ちにする」「騒音をまき散らすチンピラを倒す」という、一見すると正義に見えなくもない行動にオーズの協力者である後藤慎太郎(君嶋摩耶)は、「悪い奴をやっつけるヤミーなんだよな。それでも倒さなくちゃいけないのか?」と問う。これに、かつて海外でテロや戦争に巻き込まれた経験もある映司は、次のように返した。

「誰かを守りたいっていう気持ちが、自分たちの正義がどんどんエスカレートすることがある。正義のためなら、人間はどこまでも残酷になれるんだ」

 映司の不安は的中し、“正義”がエスカレートした神林はヤクザ疑惑のある事務所を襲撃した後、ワイロを受け取ろうとしていた汚職議員をバッタヤミーの力で制裁しようとしていた。

 一線を越える前に映司によって“制裁”を妨害され、必死に命乞いをする汚職議員の姿を見て、自らの過ちに気づいた神林。

 これに映司は、「誰が正しくて誰が間違ってるって、とっても難しいことだと思います。自分が正しいと思うと、周りが見えなくなって、正義のためなら何をしていいと思ったり。きっと、戦争もそうやって起こっていくんです」と声をかける。

 その言葉でようやく目が覚めた神林は、あらためて小さな幸せを守るために、もう一度弁護士を目指していくのだった。

 純粋な正義感からの行いでも、暴走することでただの残酷な行動になってしまうという、風刺の効いた神回。バッタヤミーのエピソードに限らず、『オーズ』は“欲望”をテーマにした作品としては珍しく、「欲張りはダメ」と否定的に描くのではなく、「欲望は生きるためのエネルギー。大切なのは、それとどうつき合うか」と、肯定的に描いていて、物語に深みを与えていた。

 こんな時世だからこそ、あらためて『欲望』をテーマにした仮面ライダーオーズを、ぜひ見てほしいーー。

(特撮ライター・トシ)

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