■「最高のゲームを体験しなければ最高水準の基準は分からない」

 大好きなことが本業となりましたが、これまで苦労を苦労と感じたことはありません。

 私は今、社長という立場ですが、いまだにゲーマーです。朝5時の起床後と、夜8時に帰宅してからのそれぞれ3時間ほどは、ゲームで遊ぶのが日課になっています。

 いろいろなゲームをプレイすると、いちプレイヤーとしての視点から、お客様が何を求めているのか、水準みたいなものがぼんやり見えてくる。

 最高水準のゲームが作りたくても、最高のゲームを体験していなければ、基準は分かりません。そういう意味でも、売り上げベスト3に入るようなゲームタイトルはプレイして、なぜ面白いのかを自分で感じ取りたいんです。

 そこから何かアイデアをひらめくこともあります。経験なしで、ゲームのアイデアが出てくるなんてことはありえません。ゲームで遊ぶ以外にも、映画を観て、小説を読んで、舞台を観て、美術館へ行って……。そういうものが全て、次のゲームのイメージの形成につながっていくんじゃないかなと思っています。

 これからの『信長の野望』でも、戦国武将の生き様を表現すること自体は変えません。ただ、今後はAIを活用して、より武将らしさを表現していきたいですね。

 たとえば現在、ゲーム中の信長のAIには、全国統一という大目標と、それを達成するための中目標、小目標が設定されています。すると、ゲームの中で信長は、まず基盤を整備し、やがて京を見据えて美濃、さらにその手前から攻略していくという、信長らしい振る舞いをするんです。また、上杉謙信のAIは、領土拡張よりも、義に生きることを目標に設定しています。だから、プレイヤーが義にもとる行動を取ると、謙信が即断攻めてきたりするんですよ。

 このように、武将の個性やさまざまな生き方は、すでにAIで十分表現できるようになっています。次回作ではこれをもっと強化して、プレイヤーが戦国時代にタイムスリップした感覚になれるまでに高めていきたいですね。

 今、囲碁や将棋やチェスの世界では、AIが世界チャンピオンになっています。そんなAIの強さをうまく活用すれば、エンターテインメントがもっと面白くなるんじゃないか。そう考えて、スマホ用で『三国志ヒーローズ』という新しいゲームを作りました。このタイトルは、囲碁や将棋と同じように、プレイヤーの知略で勝負する思考型ゲーム。対戦するAIは「ディープラーニング」という方法を使って、どんどん賢く、強くしています。

 ただ、AIが強くなっても、ゲームの面白さとつながらなければ、まったく意味がない。そのつながりを作っていくのが、私たちの役割だと思っています。

シブサワ・コウ 本名・襟川陽一(えりかわ・よういち)。1950年、栃木県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社光栄を設立。独学でゲーム開発を始め、『信長の野望』や『三國志』といった作品をリリース。いずれも大ヒットとなり、「歴史シミュレーション」というゲームジャンルを確立した。現在はコーエーテクモホールディングス代表取締役社長を務める傍ら、プロデューサーとしてゲーム開発の最前線に立ち続けている。最新作は、本格思考派ボードゲーム『三国志ヒーローズ』(iOS&Android版/基本プレイ無料)。

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