■主人公・天晴の言動に賛否あり?
本作は「19世紀のアメリカ」が舞台になっているが、もちろん作中に登場するレースやメカなどは完全にフィクションの産物である。むしろそのデタラメ感、ハチャメチャぶりを楽しむ作品といってもいい。
また、そんな作風を象徴しているのが“天晴”という主人公である。
天晴は、有数の商家の次男坊として生まれながら、毎日土蔵のひとつを占拠してカラクリの発明に熱中。実験に失敗し、たびたび騒動を起こしながらも本人に反省の色はなく、同じことを繰り返すという放蕩ざんまい。
第1話では、主君・黒田長照(声・浦山迅)の大事にしている庭を破壊して捕縛。そのうえ勝手に牢を抜け出し、実験を再開する驚きの行動を見せた。天晴の身を案じた小雨が出頭するよう説得に訪れても、まるで他人事のように聞き流し、自作の蒸気船で逃走を図る有様だった。
19世紀末の日本といえば、まだまだ旧態然とした価値観がまかり通っていた時代。そうした時代背景をふまえると、家業や伝統に縛られることなく最先端の科学を独学で極めようとする天晴は、実に破天荒なキャラといえるだろう。
だが、周囲の人間の目からすると少々身勝手な行動にも映る第1話の主人公に、いきなり好感を持つ視聴者がどれだけいるだろうか。ネットの反応を見るかぎり、第1話終了時点で天晴に対する印象は賛否の意見があり、そういう筆者自身もやや配慮に欠ける天晴の行動には少しストレスを感じたことは否めない。
■孤独な天才エンジニアの心理描写に注目
もうひとりの主人公・一色小雨が「堅物だが実直な青年」として描かれているため、天晴の鼻持ちならない態度が際立って見えたのかもしれない。しかし、天晴には科学の探求にひたむきで、世界を視野に入れた壮大な夢を持つ――という純粋な一面もあった。
マイペースに見える天晴だが、自身の行動に無理解な人々からの抑圧に鬱屈している様子も描かれており、劇中で彼が唯一心を開いていたのは、親身になってくれる実姉・綾音(声・山村響)に対してだけに思えた。
そんな中、侍とは思えないほど腰の低い小雨に興味をいだいたのか、天晴は極秘に建造していた蒸気船を披露。得意げにその性能を語って聞かせるシーンがあった。他人には無関心な天晴がわざわざ自慢の逸品を見せること自体、小雨を特別扱いした証だろう。
しかし「世界で一番速い船になるかも」という話を小雨が笑い飛ばしたとたん、 それまで楽しそうに語っていた天晴の態度が一変し、冷めた表情になる。
「同じだな、お前。少しは違うと思ったけど、やっぱり親父や兄貴と同じだ」
そう言い放った天晴の言葉からは、小雨に対する失望や侮蔑といったニュアンスが感じられた。2人の間にできた溝は、今後どのようなかたちで埋められていくのだろうか。