どうも、お笑い芸人のヤマグチクエストです。今から30年前の1990年2月11日、名作『ドラゴンクエスト4』が発売されました。
本作は、主人公以外の仲間たちが主人公と合流するまでにどんな物語を歩んできたのかを章ごとにオムニバス方式で楽しむことができる、という大きな特徴がありました。このシステムにひかれた人も多いと多いと思います。かく言う私もそのクチです。ワクワクしますよね。
さて、ファミコン版では第5章、リメイク版では第6章までシナリオが用意されているわけですが、この中で最も高い人気を誇るのは、主人公たちが一堂に会するメインシナリオの第5章ではなく、間違いなく第3章だと思います。(断言)
そこで今回は、ぶっちぎりナンバーワンの人気(主観)を誇る『ドラクエ4』の第3章を振り返っていこうと思います。
■第3章「武器屋トルネコ」の魅力
第3章の主人公は武器商人を目指すトルネコです。
トルネコは本作だけでなく、『不思議のダンジョン』という自身が主人公となった大人気ローグライクシリーズ作品も発売されていることからも分かる通り、『ドラクエ4』の登場人物の中でも屈指の人気・知名度を誇っています。
いったい、彼の何がここまで人をひきつけるのでしょうか。
まず私が思うに第3章は、物語に入るまでの流れが非常に素晴らしいのだと思います。本作はゲームを開始すると、プロローグで主人公を操作することになります。ここでは多くは語られず、のほほんとした小さな村で暮らしている主人公の様子が描かれるのみで、そのまま第1章に入ります。
プロローグで人に話す、ものを調べるといった操作を覚えた後、第1章では戦士・ライアンを操作して物語を進めることになります。
ライアンはHP・力に優れた戦士ですが魔法は使えません。そのためこの章では、モンスターを攻撃して倒す。お金を貯めて装備をそろえることで強くなっていく。ピンチになったら薬草で適宜回復する。というRPGの基礎を体験できます。
途中でホイミンを仲間にすることで「ホイミ」の役割や2人パーティ時の「ぼうぎょ」の有用性、そして道中で拾える「はじゃのつるぎ」によって(微ネタバレ)戦闘中に効果がある道具についても学べるシナリオになっているのです。
第1章が終わると次は、アリーナ・クリフト・ブライが登場する第2章に入っていきます。
この3人は、物理攻撃タイプ(アリーナ)、回復・補助タイプ(クリフト)、魔法使いタイプ(ブライ)と非常にバランスの取れた構成となっており、複数の魔物に対しても十分に渡り合っていける力を持っています。
この章では、複数パーティ時での戦闘や魔法の有用性、そして複数の仲間がいるときの装備品のやりくり、「中ボス」を倒すとシナリオが進む、というRPGのいわば基礎+応用について学べます。
さあここまででお分かりかと思いますが、本作はRPG初心者でもプレイしているうちに自然とRPGの基礎知識が理解できるよう丁寧に構成されており、第2章までで基本から応用までしっかり学べるような作りになっているんですね。
この段階を踏んできたところで第3章に入っていくのですが、ここでまた同じように「RPGのイロハ」を学ばせるような作りでは「早く本編やらせてよ」「主人公まだ?」となってしまうことは想像に難くありません。
そうした意図があったかどうかは定かではありませんが、この第3章はここまでの流れから少し離れた斬新な作りとなっていました。
まずトルネコは戦闘能力が非常に低いです。
HPこそそれなりにありますがその他のパラメータは軒並み低く、魔法も使えません。ただの商人見習いですから当然です。
戦闘能力が低いキャラクター1人でRPGのシナリオを進めるのは困難かと思いますが、特殊な作りなっているこの第3章だけは「大ボスを倒してシナリオ終了」という流れがありません。
というか、そもそもボスがいません。
トルネコの目的は、「世界一の武器商人」になり伝説の武器を手にすることなので、そもそも魔王を倒す必要性もないですしね。そのためこの章は、実は戦闘を一度もしないでもクリアできるようになっているんです(激ムズですが)。RPGなのに。でもそれが良いんです。
トルネコは、自分の店を持つためにお金を貯めることになります。
戦鬪せずともクリアはできますが、モンスターは当然のように出てきます。
なのでこれまでのように「モンスターを倒してお金を貯めよう!」ということもできなくはないのですが、一介の商人であるトルネコはストーリー開始時は当然丸腰です。
つまり装備を整えようにもお金がなく、モンスターを倒してお金を集めようにも戦鬪能力が圧倒的に低いため、2匹のもぐら(いたずらもぐら)を倒すのにも一苦労で、運が悪ければ1匹も倒せず死にます。
そのため武器防具一式をそれとなくそろえるためにも、レイクナバという田舎町の武器屋で店番のアルバイトをすることになると思います。
そんな太っちょで情けないトルネコですが、支えてくれる妻・ネネとかわいい一人息子・ポポロのおかげでプレイヤーの心は折れることはありません。
店番のバイトに行き、終業後に手渡しで給料をもらい、暗くなった頃に店から帰って自宅で床につき、また次の朝も店番に向かう……という毎日も「家族のために!」と思えば頑張れます。
第2章までで見てきた屈強な戦士や聡明な魔法使いに比べ、RPG的には最弱クラスの能力しかないトルネコ。それでもお人好しで誰からも愛される夫にネネは、毎日「おべんとう」を作り「今日も頑張ってね」と背中を押し、内助の功で夢を支え続けてくれるのです。
そう、これは魔王を倒すために立ち上がる勇者の物語ではありません。
確かにRPGらしくないかもしれませんが、第3章は、武器屋の見習いとしてこき使われている1人のしがないおじさんが、自分の夢を叶えるため、そして自分を信じてくれる愛する家族のために成り上がる「男の物語」なのです。現実の私たちの胸を熱くさせてくれるドラマがここにはあるのです。私に言わせればこれが『ドラクエ4』です。
凶悪な敵や魔王はこのシナリオには出てきません。強いて言うなら敵は「社会」です。
何度も言いますが、このシナリオの目的は「お金を稼ぐこと」です。そのためには田舎町で店番をしたり、おじいさんの背中を押して教会まで運んであげたときにもらえる手間賃をせこせこ集めていてもキリがありません。そこでトルネコはそのせこせこ集めたお金で装備を整え、町の外の世界へ旅立ち、大きな国で商売をしていくことになります。
ここからトルネコは、
「国と国をつなぐ橋を修理してもらうために、化けたキツネにだまされ足止めを喰らっている凄腕の建築家を助ける」
「国同士の戦争を止めるために奔走する」
「洞窟の奥にあるという高価な女神像を探しにいく」
などといったイベントをこなしたりこなさなかったりしながら、最終的に立派な自分の店を持つことになるのですが、自分の店を持ち田舎町に住む家族を呼び寄せたとき、「ネネ、ポポロ、苦労かけたな!」という気持ちがあふれ、思わず感涙してしまうことでしょう。
第3章のシナリオ中で起こるイベントはどれも魔物がほとんど関係していない、人と人とをつなぐイベントが多いため、王道RPGであるドラクエの中ではかなり特殊で、まるで大人向けの絵本を読んでいるような気持ちになります。これが第3章、ひいてはトルネコという心優しい男の魅力です。