なんと“ボンボン派”でおなじみのオタ友だちの家にパソコンが導入されたという速報だった! 放課後、彼女の家にパソコンを見に行く約束を取りつけ、帰宅するやいなや、私は秒で家を飛び出した。うちから彼女の家までは、塀を1枚乗り越えるだけというバツグンのアクセスの良さ! 早く検索したい思いで私は塀を乗り越え、手のひらにブロック塀の痕をつけたままクラスいち遅い足でバタバタと彼女のもとへ走った。

「パソコンは!!??」

 ひとんちにもかかわらず、ムダにでかい声がでてしまう。まぁまぁ、ちょうど起動しているよ、と落ち着いた様子で友達は案内してくれた。さすがだ……家にパソコンがある人は落ち着いている……。テクノロジーが人の心までも大きくさせる。新時代って感じだ。いいなぁ羨ましいなぁああ!! 緊張しながら通された部屋には、学校にあるパソコンと同じブラウン管に灰色の存在感のあるマシンが、専用のラックにどっしりと構えていた。おぉ……!!

「ねぇ、ちょっと検索したいことがあるんだけど……」

 激しい検索欲を引かれないようマイルドにして伝えると、彼女はサッパリと答えた。

「あぁ、これまだインターネットに繋がってないの」





 じゃあこのパソコンは今に使ってるのと聞くと、絵を描いているよ、と、慣れた様子でプロパティからペイントを開いて見せてくれた。

 うん、まぁ、すごいんだけどさ、絵なら昼間も一緒にノートに描いたじゃない。いつも紙に描いてるじゃない。ネット繋ごうよ、ネット……。押しかけておいてまぁまぁガッカリな表情で彼女のペイントの進捗を聞く。うんうん、ドットで絵を描くなんてすごいよね。私なんてせいぜいマリオのピクロスでキノコを描くことくらいしかできないよ。へぇ、バケツで塗り潰しが出来るんだね、すごいね。でもごめん……、私は検索がしたいのだよ……。

 しばらくして、またもビッグニュースが舞い込む。

 学年が1つ下のかわいい子の家に、パソコンが導入されたというのだ。おいおい、またネットに繋がってないってオチなんじゃないのか? ネットに繋がってないパソコンなんて、ただのブラウン管だよ? テレビも映らないしビデオも再生出来ないし……。ふうん、と疑いの目で速報を聞いていると、なんと、ちゃんとネットに繋がっていることが明らかになり私の態度は一変する。

「ねぇ、今日家に行ってもいい?」

 一度も遊びに行ったことがない年下の女の子の家に突然お邪魔しようとするなんて、検索欲は私のコミュ力までも改変させてしまうのだろうか。こんなに積極的に人の家に行こうとしたことはこの時以来一度もない。別にいいよ、と彼女は快く承諾してくれた。

 帰宅後、潮風で錆つき、もはや元々のピンク色だった頃の記憶をチャリ本人も忘れているに違いない肌触りの悪い自転車を飛ばして、パソコン少女の家へと向かう。

「パソコンは!!??」

 またも緊迫した表情で家へと押しかける。こっちだよ、と案内されると、そこにはYahoo!の検索画面が表示されたパソコンが!!! 繋がってる!! ネットに繋がってる!! もうその時点で勝ったも同然。感極まった私は検索の許可を彼女にとった。どうぞご自由に、とキーボード前の特等席を私に譲ってくれた。よし……、ついに検索のときがきた……!カタカタ……!

『ワンピース』

 検索!ぽち!

 そう、私が調べたかったのは漫画「ONE PIECE」について……! 大ハマりしている中、小学生の考察ではもう満足出来ず、とにかく情報が欲しかったのだ。そして出た検索結果!!

『ワンピース。女性の衣類。上下が繋がっているもの。』

 えっ、違う違う、そうじゃない……。少しスクロールしてみても洋服のワンピースのことばかり。うーん……。あ、そうか! ワンピースはカタカナじゃない! アルファベットが正式タイトルだ! 覚えてるよ! スペル! SBSでもタイトルのスペルについて触れてたし!カタカタ……。

『ONE PIECE』

 よし、今度こそ完璧! 検索! ポチ!!

『検索結果は0件です』

 はぁ……? いやいや、え? ないの? ONE PIECEの情報。念のためもう一度打ち込んで検索にかける。結果は同じであった。はぁーー!? ないの!? インターネットよ、知らんのか!? 尾田栄一郎先生の神作をよぉ!? ONE PIECEも分からんのか! インターネットよ……!!

 ありがとう、とパソコン少女にお礼を告げ、そのまま自転車に乗った。まだ時代がオタクの欲求に追いついていない……。科学がオタクに追いつく時代はくるのか。少しセンチメンタルになりながら、一番海沿いの道を通って私は帰ったのだった。おわり。

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