■『ガラスの仮面』は作者が「最終回にたどりつかない」と嘆く
ご長寿マンガは、なにもこうした男の世界だけの専売特許ではない。1976年に『花とゆめ』誌上で掲載スタートし、今でも別冊誌上で連載中の『ガラスの仮面』(美内すずえ=白泉社)も、少女マンガ界のトップランナーだ。単行本は、現在までで49巻。98年に42巻で一度連載は終了しているものの、2008年からまた再開している。「どこにでもいる平凡な少女・北島マヤが演劇の世界で隠れた才能を開花させ、女優へと成長していく姿を描いたこの作品は、実は、少女マンガ史上最大にして最強の“スポ根マンガ”なんじゃないかと、僕は思います」(前出の小碧氏)
役をつかむために懸命に努力をする主人公のマヤだが、その内容が、普通の稽古だけではなく“滝に打たれる”とか“人形のぎこちない動きを手に入れるため、上半身を竹製のギプスで固定する”といった、やや斜め上のものばかり。「これ、完全に『巨人の星』の“大リーグボール養成ギプス”とか、『ドラゴンボール』の“修業のための重い服”の発想ですよね。このあたりの、突飛なことをして新しい力に目覚めるという方法論は、どっちかというとジャンプ漫画っぽい。恋に恋しながら王子様を待ってるだけだった、それまでの少女マンガとは一線を画した“戦いのマンガ”なんです」(前同)
また、特徴的なのは、そのロマンチックな画風。「連載が進んでも変に洗練されてしまうことなく、ともすれば過剰とも取れる描写を残したまま、絵がきれいになっているのはすごい。特に私が好きなのは、不穏な空気になったり、感情が高ぶったりすると、人物が白目になるところ(笑)。急に空気が変わる感じがして、この作品の一番のポイントだと思ってます。あと、ずっと劇中の電話機は“黒電話”だったのが、2008年以降、携帯電話になってるんですが、登場人物の服装やセリフは大時代なまま、というのが面白いですね」(前出の女性誌編集者)
現在、最新49巻は12年刊行。5年間、新刊は出ていない。「こうなってくると、新刊を買った頃には前の内容を忘れてますね(笑)」(前同) 作者の美内氏をして「最終回の構想はあるのに、終わらせ方が分からない」と嘆かせる本作、まだまだ気長に読めそうだ。