■師匠との二人三脚でたどり着いた「野生」と「科学」を融合させたボクシング
怒りで意識を飛ばした鷹村の動きを、主人公・幕之内一歩は「むしろ今の方が洗練されていてしなやかに動いてる」と評している。その理由は、鷹村と鴨川会長の強固な師弟関係によるものだ。
ボクシングを始める前から「日本チャンピオンクラスの実力がある」と鷹村を評価した鴨川は、その才能を研ぎ澄ませるために近代ボクシングの基本を徹底的に叩き込んだ。
その結果、鷹村の拳には無意識でも人体の急所を確実に貫くパンチが宿った。ホークのトレーナーであるミゲル・ゼールをして「実に理にかなった攻撃だ」「人間を… 撲殺するための!!」と評価するほどの完成度で、地道に積み重ねてきたボクサーだけが手に入れられる必殺の拳である。
一方、才能にあぐらをかいてまともに練習してこなかったホークには、ボクサーとしての土台が決定的に欠けていた。ボクサー本人の積み重ねの有無、そしてトレーナーがそれをやらせたか否か、という両陣営の明確な差が存在した。この試合の明暗は、始まる前からすでに決まっていたのかもしれない。
そして迎えた試合終盤。ホークは土壇場で上体逸らしからの左を放つが、鷹村はこれを看破し、カウンターとなる打ち下ろしで仇敵をリングに叩きつけた。その姿を見たミゲルは、敵ながらこう称えた。「野生と科学の融合した姿! アレこそはボクサーの… 理想像だ!!」と。
数々の逆境に見舞われた鷹村が勝利できたのは、傲慢なホークへの怒りと、ボクシングに真摯に向き合ってきた努力の積み重ねの差が大きいといえる。
そこに、あえてもう1つ付け加えるならば、その積み重ねの中で築き上げてきた鴨川ジムの面々との絆も挙げられるだろう。第391話で、鴨川や一歩たちの幻影に鷹村が支えられる見開きのページは、その象徴的なシーンである。
努力と絆を育んできた男が、稀代のヒールを打ち倒して勝利をつかみ取る……少年漫画の王道を貫いたこの試合がベストバウトと呼ばれるのも、納得といえるだろう。
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