累計発行部数1億部を超える大ヒットボクシング漫画『はじめの一歩』(森川ジョージ氏)には数多くの名試合があるが、その中でも「鷹村守VSブライアン・ホーク」はベストバウトとの呼び声が高い。
鴨川ジムの頼れるリーダー・鷹村が初の世界チャンピオンを目指し、WBC世界J(ジュニア)・ミドル級チャンピオンのホークと死闘を演じたこの一戦は、公式の「ベストバウト投票企画」で第1位を獲得するほど絶大な支持を得た。筆者にとっても、本作で3本の指に入る名試合だ。
しかし、この試合は挑戦者の鷹村にとって、あまりにも不利な要素が多かった。冷静に振り返ると「どうして勝てたのだろうか」と不思議に思えるほどであり、彼が最も苦戦を強いられた戦いといっても過言ではない。
今回は、『はじめの一歩』ファンの心に刻まれた「鷹村VSホーク戦」において、なぜ鷹村が勝利できたのか、その理由を探りながら世紀の一戦を振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■過酷な減量に作戦ミスと不利な展開が続いた
鷹村にとって初の世界挑戦は、試合が始まる前から逆境だった。鷹村は日本ではミドル級で活動していたが、ホークの階級はそこから1段階下のJ・ミドル級だ。
平時で90kg近い巨漢の鷹村は、試合までに20kg以上となる、約69kgまで減量せねばならず、試合間隔も短かった。前の試合のダメージが残る中での減量は壮絶を極め、汗はおろか唾液すら出なくなるほどまで追い詰められる。その姿は、読み返すのがつらくなるほど痛々しいものだった。
かろうじてJ・ミドル級の体を作り上げた鷹村だが、減量でボロボロの体では5R(ラウンド)が限界だと判断し、序盤から猛攻を仕掛け、KOを狙う短期決戦を選ぶ。しかし、世界チャンピオンのホークを相手に短期決戦で決着をつけるのは厳しく、限界と定めた5Rを耐えられてしまうのだ。
限界を超える減量に、致命的な作戦ミス……神様に嫌われたかのような苦境の連続に、さしもの鷹村も「とうとう空っぽになっちまった」と、なかば諦めたような弱音を吐く。
勝てる材料がまったくない状況まで追い詰められた鷹村は、なぜ勝利できたのだろうか。その要因をここから振り返ってみたい。
■ホークはやりすぎた…「キレた」鷹村の猛攻で形勢逆転
鷹村を敗北寸前まで追い詰めたホークはたしかに屈指の実力者だが、それ以上に苛立たしい悪役でもあった。天賦の才で世界を制したホークはボクシングを舐め切っており、記者会見では日本を侮辱した発言も連発。さらに、鷹村の師匠である鴨川源二会長を殴るという暴挙にも出た。
これらの悪行が、鷹村の心に火をつけた。7Rで意識を失った鷹村は、減量の苦しみや師匠を殴られた悔しさを思い出し、すべての元凶であるホークに対して怒りを爆発させる。
「全部てめえのせいかあっ!!」と叫びながら鷹村が繰り出したパンチは、弱ったボクサーのものとは思えないほど強力で、しかもホークの急所を正確に射貫いた。それは、ジムの後輩・木村ですら「意識とんで…タガがはずれたんじゃねえか?」としか説明のできない、今まで見たことがないような「キレた」鷹村の姿だった。
この大逆転の流れは、読んでいてとてもスカッとしたことをよく覚えている。そして、その逆転劇のきっかけとなった鷹村の怒りを引き出したのは、他ならぬホーク自身の傲慢な態度だった。まさに自業自得であり、ホークは許されないラインを越えてしまったのだ。


