【追悼・わたなべまさこ先生】90歳を超えてなお現役…少女漫画のレジェンドが描いた「戦慄の傑作ホラー」の画像
わたなべまさこ著 『聖ロザリンド 総集編』(講談社)

 少女漫画界の巨匠・わたなべまさこさんが、10月3日に97歳で亡くなられたことが公式Xにて発表された。

 90代になっても現役を貫き、幅広い世代から支持されたわたなべ先生。近年では、「現役最高齢の漫画家」としても話題になるほど、最後まで作品作りに情熱を注いだ偉大な作家だった。

 先生が残した作品は、今後もたくさんの読者を楽しませるに違いない。そこで今回は、わたなべ先生の多大なる功績に深い感謝を捧げるとともに、追悼の意を込めて、過去に掲載した「本当に怖かったわたなべまさこ作品」の記事をあらためて紹介する(本文中の情報は掲載当時のもの)。

 

 

 1929年生まれのわたなべまさこ先生は、1952年に『小公子』(原作:フランシス・ホジソン・バーネット)の執筆後、『すあまちゃん』(若木書房)で少女漫画家としてデビュー。1971年には『ガラスの城』(週刊マーガレット・集英社)で第16回「小学館漫画賞」を受賞された。

 そのほか2002年に「日本漫画家協会賞・文部科学大臣賞」を受賞、2006年には女性漫画家として初の「旭日小綬章」を受勲されるなど、まさに漫画界を代表するレジェンドである。

 5年前のコロナ禍、当時91歳のわたなべ先生は、アシスタントとの“密”を避けるため、たったひとりで新連載『中国怪異譚 朱い紐』(月刊JOUR・双葉社)を描きあげ、さらに同年には初の電子書籍での連載にも挑んでいる。

 そんなわたなべ先生といえば、昭和40年~50年代には米国の人気ドラマ『奥様は魔女』のコミカライズや、『ふたごのプリンセス』(月刊プリンセス・秋田書店)など、西洋風の愛らしい絵柄がマッチした少女漫画で人気を集めた。

 だが、わたなべ先生といえば、実はとんでもない恐怖表現にも定評がある。そこで今回は筆者が読んだときに思わず「ゾクッ」とした、本当に怖かったわたなべ作品を振り返ってみたい。

 

■天使のような美少女が起こす恐怖の惨殺事件…『聖ロザリンド』

 1973年に描かれた『聖ロザリンド』は、少女漫画誌『週刊少女フレンド』(講談社)で連載されたホラーサスペンス。

 8歳のロザリンド・ハサウェイは天使のような美少女だったが、彼女の周囲では謎の事故死が後を絶たない。ロザリンドを溺愛していた伯母も不慮の事故で亡くなるのだが、実は伯母はロザリンドに殺害されたのである。

 伯母の宝物だった金の置き時計が欲しかったロザリンドは、伯母に「死んだら形見に譲る」と遺言を書かせて殺した。欲を抑えることができないロザリンドは、無垢ゆえか自身の残虐性にも気づけずにいた。

 いとこのダリアから「指輪を触らないで取れたらあげる」とからかわれた際には、温室のトリカブトで彼女を毒殺。その後、ダリアの指を自分の歯で噛み切るという壮絶な方法で、約束通り「指輪に触らない」で指輪を手に入れるのだ。

 ロザリンドの凶行は容赦ない。

 コティ婦人が大切に飼っていた小鳥が欲しくなったロザリンドは、彼女が死んだら鳥をもらう約束をし、彼女を殺そうとする。だがロザリンドが凶行に及ぶ前に、欲しかった小鳥は野良犬に食べられてしまう。

 悲しむコティにロザリンドは「必ず取り戻してあげる」と約束。だが、その方法がエゲつない。ロザリンドは野良犬を毒入りの肉で殺して腹を裂き、"取り返した小鳥"を箱に入れてコティに渡すのだ。

 変わり果てた愛鳥のむごい姿を見せられたコティが、受けたショックを想像するだけでゾッとする。

 ほかにも、首を吊らされた伯母をブランコ代わりに遊んだり、焼却炉に隠れた友人を焼死させたりするなど、ロザリンドの行動は身の毛もよだつものばかり。

 だが幼いロザリンドはろくに善悪の区別もついておらず、少女の"無垢な思い"が結果的に凶行に駆り立ててしまう。悪意なく恐ろしい行動を繰り返すロザリンドに多くの読者が恐怖しながらも、その行動から目が離せなくなるのだ。

 そんな『聖ロザリンド』は半世紀の間に何度もかたちを変えて再版され続け、わたなべ先生の代表作のひとつとなった。

■女性を魅了し支配してきた美女を襲う恐怖…『悪女シリーズ』

 1980年代に『週刊明星』(集英社)で連載され、全18巻が発刊された「悪女シリーズ」は、悪女をテーマにしたオムニバス作品。普通の主婦が堕ちていったり、悪い女性に魅入られて破滅したりと、さまざまな悪女が織りなす愛と憎悪が描かれている。

 そんな人気シリーズのなかで、筆者がとくに恐ろしいと感じたのが『密の味』というエピソードだ。

 秋に挙式予定だった亜矢は、フィアンセの浮気が原因で男性が嫌になる。そんな折、美しき女性陶芸家ミナカミ・カズに魅了され、彼女の工房に押しかけてしまう。だが、そこには、カズにすがりついて泣く女弟子の姿が。

 実はカズは同性愛者で、飽きると冷たい態度をとって捨ててしまう。過去に何人もの女性の弟子が失踪したり、自殺未遂を起こしたりしていた。そして亜矢が目撃した、カズにすがって泣いていた弟子も自らの命を絶ってしまう。

 それでも亜矢は、危険な美しさと才能を兼ね備えたカズに魅了されるが、真の恐怖は物語最後に描かれる。

 作業場でろくろを回していたカズが悲鳴をあげ、その手は血まみれ。陶芸家の命ともいえる指が何本も切断された。

 それは長年カズを慕っていた古参の女弟子の仕業だった。彼女は高速で回るろくろの粘土内に、カミソリの刃を何本も忍ばせていたのだ。

 多くの若い女性を支配してきた女陶芸家が、命ともいえる指を失ったのと対照的に、犯行に及んだ女弟子が、これで先生が他の女に触れることはないと安堵していたのが恐ろしく、哀れだった。

 幼い頃、美容室でこのエピソードを読んだ筆者は、あまりの恐怖に本と目を閉じたのを今も鮮明に覚えている。

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