■科学倫理の崩壊がもたらしたクローンの恐怖…第9話「コピー人間は高くつく」

 人間の尊厳を踏みにじるマッドサイエンスの不気味さを描いたのが、第9話「コピー人間は高くつく」のエピソードだ。脚本は、のちにノベライズ版『小説ドラゴンクエスト』などを手がける高屋敷英夫氏が担当した。

 水虫に悩むルパンは、不二子の紹介で遺伝学の権威・バドワルサー博士を訪ねるが、これは罠だった。博士はICPOからルパンの極秘資料を譲り受ける見返りに、ルパンを銭形に捕らえさせたのである。さらに、治療を装ってルパンの皮膚細胞を採取し、タブーとされた「コピーベビー(クローン)」の育成も企てる。

 本作で描かれた恐怖は、命に対する「安易さ」と、クローンという存在に対する「不気味さ」にあった。博士の目的は、クローンを英才教育し、“新たな大泥棒"へと育て上げ、世界中の財宝を強奪させるという身勝手なものだ。すでに研究所にいた「ルパンに似た緑色の猿」が、その技術の確立を物語っており、思わずゾッとさせられた。

 作中、培養液の中でカッと目を見開くルパンのカットが差し込まれ、クローンに対する底知れぬ恐怖をあおる。

 最後、細胞を奪還したルパンが「こんなもん、絶対にあっちゃいけないんだ」と、培養液のふたを開けて自身のクローン(細胞)を消滅させる。これは、ある意味「自分殺し」にもかかっており、映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年)を彷彿させる、重く不気味な余韻を残した。

■五ェ門を襲う摩天楼の怪談…第26話「ニューヨークの幽霊」

 日本の伝統的な怪談が醸し出すおどろおどろしい恐怖と、そこから急転直下する奇妙なコメディとの落差で異彩を放つ怪作が、第26話「ニューヨークの幽霊」だ。

 この回の脚本は、のちに『東映不思議コメディーシリーズ』や『世にも奇妙な物語』の脚本も担った浦沢義雄氏が手がけている。

 ある夜、ニューヨークのハドソン川で謎の骸骨を釣り上げた石川五ェ門。無縁仏として供養するが、骸骨は五ェ門の袴をつかみ、空中で煙のように消え去ってしまう。そしてホテルに戻ると「リリー」と名乗る金髪娘が現れ、自分は先ほどの骸骨で、五ェ門に恋をしたのだとほほ笑むのだ。

 神出鬼没の彼女を前に、五ェ門は「これまでの殺生の報いだ」と本物の幽霊であると思い知る。

 夜の摩天楼に照らされたハドソン川と骸骨。壁にお札を貼りまくり、全身にお経を書いた五ェ門と、彼に恋焦がれて通い詰める金髪娘。どれもが日本の古典怪談「野ざらし」「牡丹灯籠」「耳なし芳一」さながらの演出だ。

 古風な日本人である五ェ門が、ついには十字架まで手にし、西洋風の悪霊払いまで始める始末。平時の彼らしからぬ錯乱ぶりに驚かされるが、実はリリーの目的は、鋼鉄さえ両断する「斬鉄剣」にあった。

 彼女が見せた幽霊のごとき現象の真相は、同じ顔をした「五つ子」の少女たちによる緻密なトリック。彼女たちは、悪徳の富豪に奪われた祖父の形見「黄金のピンボール」を斬鉄剣によって奪還すること。だまされていたと知った五ェ門だが、最終的にはルパンと共に彼女たちに助力し、形見を取り戻すことになる。

 前半の五ェ門がらしくない姿を見せる怪奇ホラー展開から一転し、後半は美少女たちに「おじさま」と懐かれる五ェ門が見られるのが特徴。PART3らしい「恐怖」と「ほのぼのさ」の落差に困惑させられる珠玉の怪作といえるだろう。


 今回取り上げたエピソード以外にも、『ルパン三世 PART3』にはさまざまな異色回が潜んでいる。第29話「月へハネムーンに行こう」では五ェ門とダルマのシュールな対峙があり、第30話「カクテルの名は復讐」では前半がロンドンのパブだけで展開されるという実験的な試みが含まれた怪作・名作が多い。

 『ルパン三世』がアニメ化55周年を迎えた今、あえてピンクジャケットの裏に隠された『PART3』の底知れない奥深さをあらためて体感してみるのはいかがだろうか。

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