2026年は『ルパン三世』のアニメ化55周年を迎えるアニバーサリーイヤーだ。
アニメ『ルパン三世』は、言わずと知れたモンキー・パンチ氏の漫画が原作。1971年のテレビ第1シリーズ(PART1)放送開始以降、大きな人気を獲得。映画やスペシャル番組などが制作されるなど、国民的な作品へと成長を遂げた。
そしてアニメ化55周年を記念し、日本テレビでは歴代のテレビシリーズから視聴者投票で選ばれたエピソードを放送する「傑作選」が10月3日からスタート。こちらに注目しているファンも多いことだろう。
現時点でテレビシリーズは全7作(番外編を含む)あるが、昭和時代には3作品が放送された。特に緑ジャケットの『PART1』と赤ジャケットの『PART2』は圧倒的な人気を誇るが、“ピンクジャケット”こと1984年の『ルパン三世 PART3(※公式表記はPARTIII)』は、なぜか話題に上がることが少ない。
『PART3』は、それまでのシリーズからキャラクターデザインがガラッと変わり、原作寄りのタッチに変更。しかも「総作画監督」を置かなかったため、各話ごとに絵柄が変わるのも独特だった。
また、そういった実験的な試みは物語にも反映され、他のシリーズに比べて異色のエピソードが目立ち、不気味な話も多かった。そこで今回は、筆者が『ルパン三世 PART3』を見ていて「ゾッとさせられた恐怖回」をあらためて振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■鬼才・鈴木清順が手がけた屈指の怪作…第13話「悪のり変装曲」
『ルパン三世 PART3』は放送期間が2年近くに及びながら全50話と少ないのだが、その原因は「土曜夜7時」という放送枠にあった。当時はプロ野球(巨人戦)のナイター中継や特番による番組休止が多く、特に第12話と今回紹介する第13話の間隔は、約3か月も空いてしまった。
そんな長い空白期間のあとに放たれたのが、シリーズ屈指の怪作である「悪のり変装曲」というエピソードだ。
この回の脚本を手がけたのは、『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)などで知られる映画監督・鈴木清順氏。現実と幻想の境界を曖昧にする「清順美学」が炸裂し、見る人によって解釈がまったく異なる前衛的な世界観が構築された。
物語は銭形警部との攻防に疲弊し、覇気のないルパンの描写から始まる。そこに現れた峰不二子は、ルパンを大富豪マダム・ルイサのパーティに連れ出し、婦人らの宝石を盗むよう依頼する。
ところが、パーティが行われていたマダムの館は、実はスペースシャトルになっていた。そのまま世界の富豪たちと一緒に宇宙に打ち上げられたあと、地球で戦争が行われている現地を周り、上空から戦争見物を行うのである。
当初はパーティの余興だと思われたが、実は不二子がしかけた罠だった。宇宙船がゲリラにハイジャックされたと宣言し、身代金を支払うために富豪たちが身につけていた宝石類を拝借するのである。
さらにゲリラは、警察にも身代金を要求。その受け渡しに銭形警部を指名するが、ルパンの分の身代金が足りなかった。それを知った不二子は、冷ややかにルパンを処刑すると宣告するのだった。
ルパンははりつけにされ、不二子は身代金が支払われて解放された貴婦人たちに、ルパンの処刑を手伝うよう告げる。しかしその時、突然カラスの大群が現れて、その場にいた者たちに襲いかかるのだった。
次々と迫りくる理不尽かつ謎の展開のオンパレード。その場を逃れ、洞くつに逃げ込んだルパンにも執拗にカラスが襲いかかり、それをルパンは素手で撃退。黒い羽と血が散乱するなかで、ルパンがカラスの生肉をむさぼり食うグロテスクな描写もある。
ルパンが逃げのびた洞くつは、マダム・ルイサの屋敷に通じており、そこには不二子の姿に変装したマダムが待ち構えていた。これまでの不二子の奇行は、変装したマダムの仕業だったのだろう。そしてマダムは、右目を失ったことで生きることに絶望しており、自分を撃ち殺してほしいとルパンに懇願する。
それをルパンが拒絶し、彼女のいた部屋を立ち去ると、背後から一発の銃声が聞こえてくるのだった……。
その後ルパンと銭形のあいだで一悶着あるが、そこに再び謎のカラスが現れる。カラスに魅入られたように見つめるルパンの目が赤く不気味に光り、このエピソードは唐突に幕を閉じるのである。
この回の全編を支配する不条理な演出と展開が、視聴者の不安感をこれでもかとあおった。脈絡のない場面転換、突然のグロテスクな描写。結局、誰が本物で誰が偽物なのかもよく分からず、自分自身の境界すら曖昧になっていく。
カラスの正体の種明かしもなく、とにかく得体のしれない怖さにゾッとさせられた、印象深いエピソードだ。


