板垣恵介氏による『刃牙』シリーズに登場する範馬勇次郎は、作品を読んだことがない人でもその名前を聞いたことがあるほど存在感のあるキャラクターだ。「地上最強の生物」という異名を持つ人類最強の格闘家であり、規格外の強さで世界を圧倒してきた。
その勇次郎の血を引く主人公の範馬刃牙とジャック・ハンマーは、両者ともに図抜けた身体能力と戦闘能力の持ち主だ。となると、勇次郎の父親がどんな人物だったのか気になるが、その存在は長らく謎に包まれていた。
しかし、シリーズ第3作『範馬刃牙』にて、勇次郎と刃牙が繰り広げた「史上最強の親子喧嘩編」の中で、勇次郎の父親・範馬勇一郎について語られる。描写は決して多くなかったが、そこで明らかになったのは「さすが勇次郎の父親」と思わされるエピソードだった。
果たして範馬勇一郎とはどんな男だったのか。その人物像や強さについて、あらためて振り返っていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■アメリカに勝った男
作中で範馬勇一郎が初登場したのは、刃牙が勇次郎との戦いで力尽きかけていた時のことだ。何の前触れもなく、勇一郎の幽霊のようなものが現れ、孫にあたる刃牙に向かって「勝てるぜ お前……」と話しかけたのである。
その姿はかなり大柄な上に筋肉の塊で、思わず刃牙が「肩巾(かたはば)広…ッッ」と感想を漏らしたほど。勇次郎にも負けない体格の持ち主である一方、表情は穏やかで勇次郎の鬼の形相とはまるで違う。勇次郎が声を荒げてもほほ笑みを崩さず、強者らしい余裕が感じられた。
刃牙に激励を送ったあと、勇一郎の幽霊はすぐ姿を消してしまうが、そこで徳川光成が勇一郎について、「勇次郎より以前に米国に勝った男」と語って周囲を驚かせた。
第二次世界大戦末期の沖縄戦終結後、勇一郎は沖縄から少し離れた小さな島にひとりで居座り、アメリカ軍に抵抗を続けていたという。米軍は、その島に向かって1000トンを超える爆薬で攻撃を加えたが、勇一郎は生き延びた。さらに、遺体を確認するために上陸した米兵を次々倒し、またたく間に一個小隊を壊滅させたのである。
米軍は、幾度となく同じ作戦を繰り返したが結果は同じ。作戦指揮官のジェームス少将はついに原子力爆弾の使用まで上に申請した。しかし、そんな要望が受け入れられるはずもなく、作戦中止を命じられた夜に事件は起こる。勇一郎がアメリカ軍の旗艦に単身乗り込み、その分厚い甲板にジェームスを突き立てたのだ。
厚さ233ミリもある甲板は、爆薬にも耐えられる構造だった。一体どれほどの力を加えたら、そこに人間を突き刺すことができるのか。実際に目の当たりにした者たちは、自分の目が信じられなかったことだろう。
勇一郎はその後、2000名を超える兵士を恐怖させる圧倒的な強さを見せ、彼らは艦を捨てて次々と海に逃げる事態を招いた。その後、余裕で戦艦をシージャックした勇一郎は、勇次郎に負けず劣らずのバケモノであることがうかがえた。
■あの勇次郎ですら尊敬する技「ドレス」
屈強な米兵たちを恐怖させた勇一郎の得意技は「ドレス」。息子の勇次郎は特別な技を使わない主義だが、この「ドレス」は受け継いでおり、「渋々ながらも誇りたくなる」と父の技を評したほど。
この技は、相手の体をつかんでヌンチャクのように力任せに振り回すというものだ。それも並の加速ではなく、剛腕の勇一郎や勇次郎が繰り出すと、あり得ない音を立てて人間が振り回されることになる。高速で振り回される人間の残像が、技を使う者の体をおおい隠すところから「ドレス」と名づけられたという。
このドレスを食らった人間は、凄まじい遠心力によって体内の血液が体外に噴出。その様子を目の当たりにした人間は、間近でハンマー投げをやられている気分になり、あまりの恐怖にたちまち逃げ出してしまうのだ。
勇次郎にこの技をかけられた刃牙は、抵抗もできずに受け続けるしかなかった。範馬の血を引く刃牙だからこそどうにか耐えられたが、並の人間ならば最初の段階で即死していたことは容易に想像できる。


