板垣恵介氏による『刃牙』シリーズの世界では、「地上最強の生物」と呼ばれる範馬勇次郎が、頂点に君臨している。あまりの強さから、どうすれば勝てるのかまるでイメージできない格闘家といえるだろう。
連載開始当初は、そんな勇次郎にも「我こそは」と挑む格闘家がたくさんいた。しかし彼らは次々と返り討ちにあい、現在では挑戦者が勝負を挑むというより、勇次郎に教えを乞うような形になるケースが多い。
だが、そんな勇次郎にも過去にピンチらしき場面が描かれたことが何度かあった。たとえば最大トーナメント編では、暴れる勇次郎を麻酔銃で昏倒させたモブキャラもいる。ある意味、彼こそが作中でもっとも勇次郎を苦しめた存在だったのかもしれない。
今回は、そんな勇次郎が冷や汗を流すことになった、非常に珍しいシーンをいくつか紹介していきたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■ドアノブ勝負で圧倒したように見えた鎬紅葉
医者にして格闘家という異例の肩書きを持つ鎬紅葉は、日本人離れした筋肉量を誇る。近代的なトレーニングによって極限まで鍛え上げられた肉体、そして豊富な医療知識を生かした格闘術は、彼ならではの強みだ。
圧倒的な筋力により、瞬発性や柔軟性、持久性、パワーなど、ありとあらゆる素質を兼ね備え、自信に満ちあふれている人物でもある。だからこそ勇次郎に対して臆することなく、戦いを挑もうとしていた。
その前哨戦として描かれたのが、ホテルでのドアノブを介した力比べである。室内にいた勇次郎が廊下に何者かの気配を感じとり、ドアノブを回そうとすると、なぜか動かない。
誰かが外からドアノブを回していると察した勇次郎が、力で押し返そうとするもびくともしなかった。それどころか、逆にパワー負けしそうになり驚かされることになる。しかも、このとき勇次郎は「おッ おッ お!?」「なんて握力だッッッ」と、少々素っ頓狂な声まであげている。
作中、この謎の人物が誰かははっきりと描かれていないが、状況から察するに鎬紅葉が最有力候補だ。その後、彼が実戦では負け続きだったことを考えると、勇次郎はずいぶんと格下の相手に動揺させられたことになるが……。
いずれにせよ、あの勇次郎が他人の握力に驚く場面が描かれたことは、今となっては信じがたい。
■予想を超える戦術で出し抜いて見せた郭海皇
中国大擂台賽編の最後の戦いは、勇次郎と郭海皇によって締めくくられた。中国武術界の頂点に立つ郭海皇にとって、絶対に負けられない戦いであった。
郭海皇は得意の「消力(シャオリー)」によって勇次郎の攻撃を無効化し、自らの攻撃力を跳ね上げることで、勇次郎を追い詰めるような場面もあった。しかし、勇次郎はそんな技に動じず、持ち前の腕力だけで郭海皇を返り討ちにしてしまう。
あっという間に一方的な展開になり、もはや郭海皇に勝ち目はないかと思われたその時、とんでもない事態が起こる。なんと戦いの真っ最中に、郭海皇が立ったまま絶命してしまったのだ。
医師によれば死因は「老衰」だといい、これには勇次郎も「ふざけんなアァッッ」とやるせない叫びを上げた。だが、これはすべて郭海皇の作戦。自らを意図的に仮死状態に持っていくことで、勝負そのものをなかったことにしたのである。
その後、すぐに蘇生した彼は「死に勝る護身なし!!!」と語り、勇次郎も一杯食わされたと苦笑いしていた。このような形で勝負がついたのは作中でも初めてのことで、まさに100年以上生きてきた郭海皇ならではのうまい戦術といえるだろう。


