1000年の時を超える壮大な物語を描く『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人氏、作画:アベツカサ氏)には、さまざまな師弟関係が登場する。
主人公のフリーレンは現代でフェルンの立派な師匠だが、そのフリーレンも約1000年前は“英雄”と称される大魔法使い・フランメに師事し、フランメもまた神話の時代から生きる最強の魔法使い・ゼーリエの弟子であった。壮大な時の流れを描く本作では、綿々と世代を超えて受け継がれる師弟の絆も大きな見どころといえる。
そんな本作の師弟関係に共通しているのが、師匠の弟子に対する深い想いだ。分かりやすく言葉にしなくとも、師匠が行動で弟子への期待や愛情をあらわにするシーンは、名エピソードとして読者の心に深い余韻を残した。
そこで今回は、『葬送のフリーレン』で師匠たちが見せた「弟子への愛」を象徴するエピソードをいくつか紹介しよう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■「気まぐれで育てた」と言いつつ遺言を受け継いだゼーリエ
まずは、現状で最古の師弟関係となるゼーリエとフランメから見てみよう。フリーレンより遥か昔から生き続け「全知全能の女神に最も近い」と呼ばれるゼーリエ。彼女が弟子として育てたのが、後に伝説の大魔法使いとして人類史に名を残すフランメだった。
これほどの才能を持つフランメは、ゼーリエにとってさぞかし見込みのある弟子だったと思われる。だが、ゼーリエは彼女のことを「所詮は気まぐれで育てた弟子だ」と吐き捨て、一貫して冷淡な態度を取り続けた。
漫画の第53話「人間の時代」では、亡くなったフランメの遺言をゼーリエが受け取るシーンが描かれている。フランメは「人類の誰もが魔法を使える時代」の到来を願い、そのための下地を生前に造り上げていた。
その遺志をゼーリエに引き継いでもらい、魔法使いの教育に力を入れてほしい……というのが遺言の内容だったが、ゼーリエはこれを拒否する。ゼーリエにとって魔法とは、「才ある者だけが扱うべき特別なもの」であり、フランメの考えとはまるで違った。師弟でありながらまったく異なる思想を持っており、ゼーリエがそうするであろうことをフランメは予言していた。
だが、現代でゼーリエが何をやっているかといえば、大陸中の魔法使いを束ねる「大陸魔法協会」の創始者となり、いわば後進の魔法使いを育成する組織のトップに君臨している。結果的に自らの思想と相容れなかったフランメの遺志を継いだかたちとなっているのだ。
「気まぐれで育てた」とうそぶいた弟子の遺言を、1000年以上の時をかけて守り続けるゼーリエの行動は、言葉では語り尽くせない「弟子への愛」の表れなのかもしれない。
■1000年後のフリーレンのために「手記」を遺したフランメ
ゼーリエに師事したフランメは、後に勇者とともに魔王を倒す魔法使い・フリーレンの師匠となる。フリーレンに魔力偽装の技術を叩き込み、魔族を欺き葬るための魔法の使い方を徹底的に指導したフランメは、魔王討伐の土台を作った1人といえよう。
そんなフランメは、魔法の技術以上に大切な贈り物をフリーレンに遺している。漫画の第7話「魂の眠る地」において、フリーレンは昔の仲間・アイゼンの依頼で「大魔法使いフランメの手記」を探し出す。そこには、死者の魂が集まるとされる“魂の眠る地(オレオール)”の存在が記されていた。
この出来事をきっかけに、フリーレンは亡き勇者ヒンメルの魂と話すため、魂の眠る地へ向かう旅を始める。だが、どうやらフランメはフリーレンがこのような旅に出ることを予見していた節がある。
同じ第7話の回想シーンで、生前のフランメは「お前(フリーレン)はいつか大きな過ちを犯し、人を知りたいと考えるようになる」、さらに「そん時はここに帰ってこい、手助けしてやる」と語っていた。
漫画の第1話でフリーレンが「…なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…」とヒンメルの死に涙したように、悠久の時を生きる弟子が、いつか人間との交わりの中で後悔を抱くことになるとフランメは悟っていた。その時のために彼女は、1000年後の弟子に向けて手記を遺したのだ。
自分が亡き後に遺される弟子を想い、遠い未来まで贈り物を届けたフランメ。師弟が継承するものは魔法の技術だけではない、と思わされたエピソードだ。


