■泥まんじゅうを食べる演技で情熱を取り戻した『夜叉姫物語』

 スキャンダルの渦中にあったマヤが出演した舞台『夜叉姫物語』(コミックス第17巻)では、精神面や立場どころか、体にさえ害を及ぼしかねない悪質ないじめと、それを超越するマヤの鬼気迫る怪演が描かれた。

 母の死とスキャンダルで疲れ切ったマヤは、“これが最後”と心に決め、物語の本筋とは関係のない端役・トキとして『夜叉姫物語』の舞台に上がる。しかし、彼女の悲壮な決意とは裏腹に共演者の反応は冷たく、「あの子を困らせてやろう」という悪意に満ちたイタズラ心から、小道具のまんじゅうを泥で作られたものにすり替えるという嫌がらせを実行する。

 トキがおいしそうにまんじゅうを食べなければ、舞台そのものが台なしになってしまう……この窮地が、マヤの役者魂に火をつけた。

 マヤは完全にトキになりきり、泥まんじゅうをまるで本物のまんじゅうであるかのように食べ始める。ジャリジャリと音を立てながら、満面の笑みで泥まんじゅうを貪るマヤの姿と、「おらあトキだ!」という心の声は、もはや「天才」という言葉では表現できないほど常軌を逸したものであり、本作でもとても印象深いシーンのひとつとなっている。

 出番を終えた後、舞台裏で速水真澄に介抱され、泥を吐き出したマヤだが、その胸には芝居に対する情熱がたしかに蘇っていた。最も卑劣な嫌がらせが、結果的にマヤをどん底からはい上がらせる光明となったのだから、あまりにもドラマチックな展開である。

 

 こうして振り返ると、数々の悪意に満ちた嫌がらせですら、マヤを舞台で輝かせるための引き立て役に見えてくるから面白い。

 物語の主人公が穏やかで平坦な道を進むのではなく、敵に妨害されながらも茨の道を駆け抜ける姿にこそ、見ているほうは大きな魅力を感じる。そして卑劣な嫌がらせを打ち砕いた北島マヤの逆転劇に、極上のカタルシスを覚えるのである。

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