2026年8月19日に最新刊となる第80巻が発売された『キングダム』(原泰久氏)は、2006年の連載開始から20年が経過した現在も、その勢いが衰えることのない大人気漫画。
本作の魅力の1つが、天才策士たちによる“卓越した軍略”である。敵味方を問わず、相手の意表を突く奇策を仕掛け、自軍を勝利に導く様は圧巻だ。
そこで、作中で描かれた数々の戦いの中から、もはや開戦前に勝負は決まっていたともいえる「天才策士たちの見事な知略」を紹介していこう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■王翦…難民まで戦力に変えた! 常識破りの攻略戦
趙の王都圏内にある大都市・鄴を攻略するため、秦軍の総大将・王翦は20万もの兵を率いて趙の国門・列尾を攻め落とした。だが、この城は奪還しやすいように、趙の宰相・李牧によって意図的に城壁が低く設計されていた。
李牧の狙いは、列尾を奪い返して兵糧の補給路を断ち、長期戦に持ち込んで秦軍を自滅させることだった。一方、鄴を実際に見に行った王翦もまた、この城は正攻法では落とせないと判断していた。
そこで王翦が実行したのは、常識外れの奇策であった。まず、鄴周辺の小城を次々と攻め、住民にはいっさい危害を加えず、鄴に避難するよう促したのである。これにより、趙国内の難民たちが大都市・鄴へと向かっていった。
鄴の城主は難民をすべて受け入れるも、結果としてこれが命取りとなる。鄴は9つもの城にいた民間人を抱え込むことになり、備蓄していた兵糧はあっという間に底をつき、籠城戦を維持できなくなってしまったのだ。
しかも、王翦は負傷兵を装った密偵を鄴に潜入させ、兵糧庫を焼き払わせている。これにより、籠城する鄴を効率よく兵糧攻めに追い込むという、李牧すら予想できなかった策を仕掛けたのである。
その後、王翦と李牧は朱海平原の戦いで対決し、わずかの差で王翦が勝利。内部では民の暴動によって城門が開かれた際に秦軍が攻め入り、鄴はついに陥落した。だが、そこに兵糧はいっさい残っておらず、今度は秦軍が飢餓に苦しむこととなる。
そこで秦の王都から補給部隊が陸路と水路で向かうのだが、これを事前に予測していた李牧によって阻まれてしまう。万事休すかと思われたその時、まったく逆方向である東の斉国から、半年分の兵糧が水路で運び込まれた。
なんと、これもまた王翦の策略であった。彼は出陣前に秦国丞相・昌平君と連携し、兵糧の補給が李牧に読まれることを見越して、斉国から輸送してもらうよう手配していたのだ。
幾重にも張り巡らされた王翦の知略により、難攻不落といわれた鄴の攻略は成功したのである。
■桓騎…狙いは総大将の首だけ! 3倍の兵力差をくつがえした平陽の戦いでの「一点突破」の大奇襲
六大将軍制度を復活させた秦は、趙攻略を本格的に進めていく。
その先陣を切った桓騎は8万の軍で平陽を攻めるが、対する趙軍は総司令・扈輒(こちょう)が率いる24万の大軍であり、およそ3倍もの兵力差があった。
この無謀ともいえる戦いで、左翼に配置された王賁率いる玉鳳軍は、攻略が困難な“影丘”において壊滅的な打撃を受ける。その後を託された李信率いる飛信隊もまた、大苦戦を強いられる絶望的な状況だった。
一方、桓騎軍の中央軍と右軍も圧倒的な戦力差により劣勢となる。元野盗が主力の軍は負けが濃厚になると統制を失い、脱走兵が続出。軍は散り散りとなって、趙軍による残党狩りが始まった。
だが、飛信隊は若手の覚醒や王賁の助言もあって影丘を突破し、趙左軍の将・岳白公を討ち取ったことで戦況が動く。これによって飛信隊は、扈輒の本陣を横から急襲できる位置まで到達した。桓騎を探すため、前線に多くの兵力を割いていた扈輒軍は、手薄になった本陣を守るべく、中央にとどめていた5千の予備兵を飛信隊へ向かわせる。
実は、これこそが桓騎の狙いだった。扈輒軍の予備兵が動いた瞬間、桓騎は突如、扈輒本陣の前に姿を現し、わずか1千の兵で四方から奇襲を仕掛けたのである。まだ3千の兵が残っていたものの、桓騎軍の凄まじい勢いの前に本陣はどんどん突破されていった。
この奇襲のからくりはこうだ。脱走したと思われた桓騎軍の兵には、逃げずに戦場に潜伏していた者がいたのである。元野盗である彼らは死体にまぎれたり、草むらに潜んだりすることが得意で、扈輒軍は彼らの存在に気づかず素通りしていた。
さらに、何も知らされていない数万もの脱走兵は本気で逃亡したため、趙軍は偽装されていることに気づけなかった。桓騎は、飛信隊が扈輒の予備兵を引きつけ、本陣が手薄になることまで計算していたのである。
桓騎は、圧倒的な兵力差で挑めば自軍から脱走兵が出ると踏み、あえてこの劣勢の戦いに挑んだ。その狙いはただ一つ、総大将・扈輒の首だ。この常軌を逸した策によって扈輒を討ち取り、形勢を一気に逆転して勝利したのである。


