1986年より連載が開始された『ジョジョの奇妙な冒険』では、精神エネルギーを具現化した特殊能力「スタンド」を用いた戦いが数多く描かれてきた。
スタンドは基本的に、本体であるスタンド使いが倒れればその能力も消滅する。しかし、なかにはこのルールを逸脱し、本体の死後も活動を続ける型破りなものも登場している。本体から切り離され、独立した意思を持つかのように執拗に迫るその姿は、多くの読者を恐怖させた。
そこで今回は、本体という縛りから解き放たれ、より凶悪な脅威と化した恐ろしいスタンドたちを紹介する。
※本記事には作品の内容を含みます。
■500年前の呪いが刃に宿る…「アヌビス神」
第3部では、宿敵・DIOを倒すため、ジョースター一行がエジプトへと向かう道中で数々のスタンド使いと激突する。
そのなかでも異色の存在だったのが、刀剣に宿るスタンド「アヌビス神」だ。これは人間ではなく、刀剣そのものにスタンドが宿るという、極めて珍しいタイプである。
本来の本体は、500年前に没したエジプトの刀鍛冶キャラバン・サライであったが、彼の執念はスタンドとして剣に宿り、後世に受け継がれていた。
このスタンドは、剣を鞘から引き抜いた人間の意識を乗っ取り、新たな宿主として自在に操る能力を持つ。
作中では、チャカやカーンといった一般人をはじめ、ジョースター一行のジャン・ピエール・ポルナレフまでもが剣に乗っ取られてしまった。
そのうえ、このスタンドは「一度受けた攻撃の特性を覚える」能力を備えており、戦えば戦うほど強くなり、宿主を剣の達人へと変貌させる。その成長性は驚異的で、ポルナレフが放った剣先を飛ばす奇襲も、二度目はたやすく受け止め、完璧に防いでいる。
この特性上、剣を操る人間を倒しても効果は薄く、新たな宿主を見つければ、以前よりも力が増した状態で再び襲いかかってくるのである。
500年前の本体がどのような人物だったのかは定かではない。しかし、刀鍛冶として抱いた「強い刀を作りたい」という執念が自立し、力を増す剣として発現したと考えられる。
倒しても倒しても新たな持ち主を得て復活する姿は、まさに数百年もの時を超えて漂い続ける“呪い”そのものだ。
■背中に張り付く、逃れられぬ死神「チープ・トリック」
第4部では日本の杜王町を舞台に、連続殺人鬼・吉良吉影を追う緊迫した攻防が繰り広げられる。
日常風景に潜むスタンド使いたちの存在も特徴的だが、なかでも一級建築士の男・乙雅三のスタンド「チープ・トリック」は、その型破りな能力で読者を震え上がらせた。
スタンド自体は小柄で直接的な攻撃力はなく、ただ宿主の背中におぶさり、言葉をささやく程度のことしかできない。一見すると無力そうな存在だが、このスタンドの本質はその特異な能力にある。
それは、「取り憑いている者の背中を見た第三者へと、宿主を乗り換える」というもの。背中を見た者は新たな宿主となるが、そのときに元の宿主は背中をえぐられ、全エネルギーを吸い取られて絶命してしまうのだ。
乙自身はこのスタンドをまったく制御できていないばかりか、「背中を見られてはいけない」というルールについても、漠然とした強迫観念としてしか認識していなかった。
いわば、次々と本体を乗り換えて寄生し続けるスタンドであり、従来のスタンドバトルの常識がまるで通用しない相手なのである。
加えてやっかいなのが、取り憑かれている間はその人間が本体とみなされるため、スタンドを攻撃すれば、そのダメージはすべて宿主へと跳ね返ってしまう。
作中では漫画家・岸辺露伴がこのチープ・トリックに取り憑かれてしまう。仲間のスタンド能力で背中から引きはがそうと試みるも、逆に露伴自身にダメージが及び、あわや背中の肉が裂けかける事態に陥った。
数々の特殊なスタンドが登場する第4部だが、ここまで本体にデメリットのみをもたらすスタンドは他にないだろう。まさに、さまざまな負の概念のみが形を成し、具現化された悪夢のような存在といえる。


