高校野球と恋愛をテーマに描かれた不朽の名作『タッチ』(あだち充氏)。本作の主人公・上杉達也は、周囲からその真価を侮られやすいキャラクターである。類い稀な才能を秘めながらも、のんびりと学生生活を満喫していた時期が長かったため、双子の弟・上杉和也と比べられて過小評価されることも多かった。
その和也や幼なじみの浅倉南といった近しい人物を除けば、達也が本格的に野球を始めて成長するまで、彼の才能に気づかなかった人のほうが多いだろう。だが作中には、彼らのように近しい人物でなくとも達也の能力を早期に見抜いた人物も存在した。ともに過ごした時間の長さにかかわらず彼の才能に気づけたことを考えると、ある意味、真の理解者といえるのかもしれない。
そこで今回は、甲子園優勝投手となる達也が結果を出す前からその才能を見出していた『タッチ』のキャラクターたちを紹介しよう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■プールで達也の身体能力に気づいたマネージャー・西尾佐知子
明青学園高等部の野球部マネージャーだった西尾佐知子は、達也がまだ中等部にいた頃、コミックス第1巻・第4話の時点で達也の才能に気づいた人物である。早さでいえば、南や和也を除けば随一といってもいいだろう。
佐知子が達也と出会ったのは、市民プールでのことだ。南に良いところを見せようと珍しく真剣に泳いでいる達也を見かけ、強靭な足腰とバネの持ち主であることを見抜いたのである。ただし、この時は達也のことを弟・和也だと勘違いしていた。
後日、プールで自分が見たのは野球部のホープ・上杉和也ではなく、周囲から「その出がらし」と揶揄される双子の兄・達也であったことを知ると、佐知子は直接「野球やってみる気ない?」と勧誘する。
電話番号やスリーサイズを尋ねてはぐらかそうとする達也に動じることなく、「あなたは和也くんにもおとらない、——いえ、もしかしたらそれ以上の素材じゃないかって」「いっしょに甲子園めざしましょ」と、手を握りながら熱烈に誘った。
結果的に、達也はこの勧誘で野球部に入ることはなかった。それどころか、和也の代理として出場した試合ではサヨナラボークという大失態を犯してしまう。それでもなお「おかしいなァ………」と達也の可能性を信じようとした佐知子の慧眼は相当なものである。
■才能だけでなく気持ちも察した理解者・原田正平
中学時代から達也と腐れ縁である原田正平は、達也の才能に気づいた代表的なキャラクターだ。「天才という言葉は——死んだ弟より、やつのほうにふさわしいかもしれないな」と語ったように、彼は早くから達也の非凡さを見抜いていた。また高校進学後は、達也にとってかけがえのない親友になっていく重要な人物でもある。
象徴的なのが、コミックス第4巻で達也をボクシング部に勧誘する展開だ。高校では野球部への入部を考えながらも結局は諦めてしまった達也を、原田は半ば強引にボクシング部へと引き入れる。
達也に秘められた身体能力を見抜いて最強のボクサーにしようと考えた……わけではない。部活初日の帰り道、原田は達也に対し「おまえはすこし殴られる必要があるのさ」「でなきゃ、おまえからは殴らねえだろが………」と語っている。達也が自分から殴れる男、つまり戦いから逃げない男にするため、喝を入れる狙いもあったのだろう。
その後も原田は「そのうち…(和也と)いやでも戦うことになるさ」「舞台にあがれ、上杉!」といった言葉で、和也と向き合うよう達也を促し続けた。彼は、達也が本気になれば和也と対等以上に戦えることも、そして和也に勝ってしまう未来を避ける達也の優しさ、あるいは臆病さのすべてを見抜いていたのだ。
達也の才能だけでなく、繊細な心まで見透かした上で背中を押し続けた原田は、『タッチ』の物語において欠かせない名脇役といえよう。


