■最期は武人として散っていった鬼

 2016年から2020年まで連載された吾峠呼世晴さんの『鬼滅の刃』(集英社)。主人公・竈門炭治郎と水柱・冨岡義勇が上弦の参・猗窩座に立ち向かった戦いは、シリーズ屈指の名勝負として知られている。かつて炎柱・煉獄杏寿郎を葬った宿敵を相手に、2人の剣士が命をかけて挑んだ無限城での死闘だ。

 無限城にて猗窩座は天井を次々と打ち破り、城全体を揺らしながら、炭治郎と義勇の前に登場。そして炭治郎を一目見るなり、「よく生きていたものだ お前のような弱者が」「竈門 炭治郎!!」と言い放ち、即座に襲いかかる。

 対する炭治郎は見事な剣さばきを見せ、なんと猗窩座の腕を斬り落としてみせた。そこに義勇も加勢し、彼が猗窩座の攻撃を受け流せば、その隙に炭治郎が斬り込む。炭治郎が攻撃を受けそうになると、義勇が援護に回る……と、2人は見事に呼吸を合わせて猗窩座を追い詰めていった。

 しかし、猗窩座は驚異的な適応能力で2人の動きを読み解き、その攻撃に対応していく。さらに、相手の闘気を読み取る「破壊殺・羅針」と、圧倒的な再生能力によって、どれだけ鋭い斬撃を浴びても致命傷には至らない。徐々に2人の攻撃の手は鈍り、劣勢に追い込まれていった。

 絶体絶命の窮地、炭治郎はついに至高の領域「透き通る世界」に覚醒すると、凄まじい速度の攻撃で猗窩座の頚を斬り落とす。だがそれでも戦いは終わらない。

 頚を落とされてもなお、猗窩座は執念で再生を試み、鬼を超えた別の生き物へと変貌しようとする。ところが炭治郎のまっすぐな姿勢が、猗窩座の中に眠っていた人間だった頃の記憶を少しずつ呼び起こしていった。

 最期に猗窩座が選んだのは、自らの意志で再生を止めること。正々堂々と挑んできた炭治郎に敗れたことを認めると同時に、人間だった頃に「守りたかった人たち」の記憶を取り戻したことで、体が崩れて消え去っていく。戦いの迫力はもちろん、その中で描かれた猗窩座のドラマも含めて、心揺さぶられる激闘だった。

 

 2対1という構図は、一見すると不公平に思えるかもしれない。だが、それでも勝てるかわからない強敵に、あえて2人で立ち向かう姿勢には、絶対に負けられないという覚悟や、仲間に対する信頼が込められている。だからこそ命をかけて臨む2対1のバトルは、読者の心に強烈な印象を与えるのかもしれない。

 

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