田中芳樹氏による人気小説『銀河英雄伝説』には、数え切れないほどのキャラクターが登場。とくに銀河帝国は、ラインハルトが集めたきら星の如き名将が並び、層の厚さが感じられた。
その中の1人であるフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトは、漆黒の宇宙艦隊を率いる猛将で知られる。彼が率いる艦隊による攻勢は凄まじいが、その一方で守勢を強いられると脆いという一面もあった。
また、作中では感情が先走って敵の策に引っかかって叱責される場面も描かれており、猪突猛進の猪武者といった印象を抱いた人も多いことだろう。
しかし彼の戦歴を振り返ってみると、自由惑星同盟の屋台骨を支える重要人物たちを次々と討ち取り、実は戦局そのものを大きく動かしてきたことが分かる。さらに彼の功績は戦場だけにとどまらず、時には誰も言えないことを堂々と発言し、帝国の未来を左右する決断にまで大きな影響を与えていた。
そこで今回は、ビッテンフェルトがいかに銀河帝国における功労者だったのか、あらためて振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■同盟軍随一の勇将を正面から討ち取った功績
ビッテンフェルトの大きな功績としてまず挙げたいのが、アムリッツァ星域会戦の前哨戦において、同盟軍の猛将ウランフ提督を撃破したことだろう。
ウランフは同盟軍の中でも屈指の猛将であり、ビュコックやヤン・ウェンリーといった名だたる将たちからも高く評価され、厚い信頼を寄せられていた人物だった。
同盟軍第10艦隊の司令官として帝国領侵攻作戦に参加していたウランフは、惑星リューゲン上空でビッテンフェルト率いる黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)の攻撃を受ける。
ラインハルトが仕掛けた焦土作戦によって兵糧不足に陥り、数の面でも劣るウランフ艦隊の士気が低下していたとはいえ、ビッテンフェルトの猛攻は凄まじかった。
第10艦隊に壊滅的な打撃を与えた上に、自ら殿(しんがり)を務めて残存艦隊を離脱させようとしたウランフが乗る旗艦を撃沈、同盟の名将を戦死させたのである。
のちにビュコックをして「ウランフがいてくれれば」と言わしめたほどの貴重な存在であり、同盟サイドに計り知れない損失を与えたことは言うまでもない。彼を失ったことが、同盟の衰退を早めた一因になったという見方もできるかもしれない。
ちなみにビッテンフェルトは、その後のアムリッツァ星域会戦においても第8艦隊司令官のアップルトンを戦死させている。
ビッテンフェルトは、このアムリッツァ星域会戦にてヤン・ウェンリーの第13艦隊の反撃にあい、一部の同盟軍を取り逃すきっかけを作る失態を犯した。だが、この一連の戦いにおいて同盟軍の艦隊司令官を2人も討ち取ったのはビッテンフェルトだけである。
■ヤン艦隊に想像以上の大打撃をもたらしたビッテンフェルトの攻撃力
続いてはイゼルローン回廊で行われた戦いでの功績を振り返ってみたい。この回廊の戦いの緒戦でビッテンフェルト艦隊は、ヤンの策略にハマって大きな損害を被った。不利な状況で戦いに引きずり込まれたビッテンフェルトは、盟友のファーレンハイト提督まで失ったのである。
その後、ビッテンフェルトの艦隊は戦死したファーレンハイト艦隊と合流して猛攻撃を行った結果、ヤン艦隊に取り返しのつかない損害を与えることになる。
その混戦の中で、黒色槍騎兵艦隊が戦死させたのは、エドウィン・フィッシャー提督。ヤン艦隊の航行や艦隊運用を一手に担い、「生きた航路図」とまで呼ばれた逸材で、魔術のごときヤンの作戦を完璧に遂行してきたのも、フィッシャーの艦隊運用技術があってこそだった。
結果的にヤン艦隊は、フィッシャーを失ったことで戦闘の継続が困難になったことを悟るのである。その後、ラインハルトから停戦と会談の申し出があり、ヤンがこれを受けることになった理由の1つに、フィッシャーを失ったことが一因であるのは、彼の発言からも明らかである。
実はビッテンフェルトは、本人も気づかないうちにヤン艦隊に致命的な打撃を与えており、それが結果としてヤンの暗殺という歴史的事件にまでつながってしまったのは皮肉としか言いようがない。


