「魔術師」を支えた男たち…『銀河英雄伝説』ヤン艦隊の逸材が残した「偉大なる功績」 シェーンコップにムライ、アッテンボローも…の画像
Blu-ray「銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲(オーヴァチュア) デジタルリマスター」(徳間書店) (C)田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー (C)加藤直之

 田中芳樹氏の小説『銀河英雄伝説』は、アニメや漫画などさまざまなメディアにも展開され人気を誇った。銀河帝国と自由惑星同盟という2つの国家の争乱を描く壮大なスペースオペラに魅了されたファンも多いことだろう。

 数々の名将が活躍し、優れた手腕を見せつけたが、自由惑星同盟においてはヤン・ウェンリーの活躍が真っ先に思い浮かぶ人も多いはず。「魔術師」とも称されるヤンは、銀河帝国軍の名将たちをことごとく手玉にとった有能な提督である。

 しかし、どれほど優れた知将であっても、1人だけで戦いに勝てるわけではない。ヤン艦隊の強さは、彼を支える優秀な部下たちの存在も大きかった。ヤンを支えた幕僚たちは個性派が目立ち、一芸に秀でた者が多かった印象がある。

 中には派手な武勲こそ少ないものの、自分の役割をまっとうしたり、ときには自ら汚れ役を引き受けたりと、陰からヤンを支え続けた者もいたのである。

 今回は、そんなヤン艦隊に存在した逸材たちが見せた、見事な働きぶりについて振り返ってみたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます。

■一滴の血も流さず、見事に作戦を遂行した功労者…シェーンコップが成した偉業

 まずはヤン艦隊屈指の武闘派として知られるワルター・フォン・シェーンコップから。「薔薇の騎士(ローゼンリッター)」と呼ばれる白兵戦に特化した集団を率いる彼は、帝国貴族の血を引きながらも自由惑星同盟に亡命した男だ。毒舌家として知られるが、部下からの信頼は極めて厚い。

 そんなシェーンコップの真価が発揮されたのが、第7次イゼルローン要塞攻防戦である。

 新設されたばかりの第13艦隊司令官となったヤンによる最初の軍事作戦であり、通常の半数の艦隊で、難攻不落で知られる要塞を攻略するという、無謀ともいえる内容だった。

 だが、ヤンが立てた策が見事にハマり、同艦隊は味方の血を一滴も流すことなく攻略してしまう。そのヤンの知略と手腕ばかりが注目されがちだが、実際に要塞内部へと潜入し、無傷での制圧を成功させたのはシェーンコップ率いるローゼンリッター連隊だった。

 シェーンコップは密命を帯びた帝国軍人に扮装し、要塞司令官のシュトックハウゼン大将に面会を求める。見事な演技力で緊急事態を装い、正面から要塞内部に侵入すると、シュトックハウゼンを捕縛した。

 そして高熱や高エネルギーに反応して引火爆発を起こす「ゼッフル粒子」を散布し、帝国軍の銃火器を封じると、ローゼンリッターの圧倒的な白兵戦能力で要所を制圧。指令室を占拠し要塞のシステムを奪ったシェーンコップは、ヤン艦隊を要塞に招き入れることに成功したのである。

 ヤンの偽情報に引っかかって出撃していた帝国軍の駐留艦隊がイゼルローンに戻ってきたが時すでに遅く、同盟側が放った要塞主砲「雷神の鎚(トールハンマー)」を浴びて壊滅状態となった。

 こうしてヤン率いる第13艦隊は、味方に1人の犠牲を出すことなく難攻不落といわれたイゼルローン要塞を陥落させたのである。

 もちろんヤンが立案した策も見事だったが、それを無傷で遂行して期待に応えたシェーンコップの手腕は凄まじい。第7次イゼルローン要塞攻防戦における最大の功労者といっても過言ではないだろう。

■自ら嫌われ役を引き受けた男…ムライによる苦渋の決断

 ヤン艦隊の参謀長として、良識ある振る舞いと常識論を展開させてきたムライ中将。若く型破りな人材が多いヤン艦隊において、彼は軍人としての規律を重視し、常に正論を展開する、やや地味な印象を受ける人物である。

 彼の小言を煙たがる幕僚もいたが、彼はそんなことを気にもせず、ヤン艦隊を引き締める役割を担い続けた。

 しかし、そのヤンの死後、彼の名声や強さを頼りにイゼルローンに集まっていた者たちから不安や不満の声が上がり始める。このままでは内部崩壊しかねない状況を悟ったムライは、ヤン艦隊での最後の仕事として、不満を口にする者たちを引き連れてイゼルローン要塞を出ていくことを決断するのである。

 長年ヤンのもとで参謀長を務めたムライほどの宿将が、ヤンを裏切るような行動を表明したことで悪評が立つことは避けられない。しかし、それでもヤンの後継者となったユリアン・ミンツやフレデリカのためにあえて憎まれ役を買って出て、イゼルローンから不満分子を連れて出る道を選んだ。

 “魔術師”と称されるほどのヤンの参謀長だったムライは、いつも常識論を提言する存在であり、決して派手な武勲はなかった。だが、誰もが嫌がるような損な役割を進んで引き受けていたムライのような存在がいたからこそ、ヤン艦隊は最後までまとまりを失わなかったともいえるだろう。

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