■兵頭るりがつくる会話劇の“巧妙”さ
夜の街を走るタクシーは、独特な雰囲気がただよっている。『ミッドナイトタクシー』を見ていて、「タクシー運転手って面白くない?」と思ったので、現役タクシードライバーの友人に「いつか、わたしもやってみたいな」と言ったら、「まじで大変だよ」と止められた。
たしかに、毎日さまざまな人を乗せて走る仕事は、決して簡単なものではないのは分かる。それでも、象子を見ていると、「こんなドラマチックな仕事、ほかになくない?」と思ってしまうのだ。
さらに、象子が運転するタクシーの車内では、さまざまな“ドラマ”が繰り広げられる。
とくに好きだったのは、第2話。女性の2人組が、乗客としてやってくる。そして、さとうほなみ演じるロングヘアの女性(ここでは、Aさんと呼ばせてもらう)が、恒松祐里演じるポニーテールの女性(ここでは、Bさんと呼ばせてもらう)に、「実は、42歳なんです」と切り出すのだ。
聞き耳を立てていると、どうやらAさんとBさんは、さっきレストランで出会ったばかり。Bさんの元に運ばれてきた「HAPPY BIRTHDAY」のプレートを見て、自分と同じ誕生日だと悟ったBさんが、Aさんに声をかけて、あっという間に友達になったらしい。
干支が同じだったから、同い年だと思ったBさん。しかし、それは早とちりで、Aさんはなんとひと回り上だったのだ……! わたしがBさんだったら、「いやいや、30じゃなくて42ね」とすぐに言っているかも。ただ、Bさんがあまりにもハイテンションすぎるので、なかなか切り出せないのも分からなくはない。
「恋愛ソングといえば?」という同い年トークを切り出されて、「浜崎あゆ……」と言おうとするAさんと、「えっ、西野カナでしょ!」と返すBさん。たしかに、どんな恋愛ソングを聴いてきた? って質問は、世代が出る。ちなみに、わたしもBさんと同い年なので、カナやんで恋を乗り越えてきました。
ポップな会話劇のなかに、“哲学”を詰め込むことができるのが兵頭脚本のすごさだと思う。ウソをつかれたことに怒るBさん(これは分かる)と、ウソをつかされたからと被害者ぶるAさん(酷すぎる)。最初は、「Aさん、最悪すぎだろ」と思ったけれど、だんだんと「なんか、分かるかも」と共感してしまった自分がいた。
例えば、親に「なんで言わなかったの!」と怒られて、「言えないような状況をつくってたのはそっちじゃん!」なんて悪態ついた経験、多くの人があるのではないだろうか。
自分が悪いと分かっていても、素直に謝れないときがある。傷つけた側なのに、「わたしだって傷ついた」と言いたくなることもある。そんな人間のどうしようもない弱さを、兵頭脚本は見逃さない。
わたしも、30歳になるまであと数ヶ月。このタイミングで、『ミッドナイトタクシー』を見つけられてよかった。こういう予期せぬ出合いがあるから、テレビは面白い。まるで、偶然に乗り込んだタクシーが、思いがけない場所に連れて行ってくれるように。
象子のタクシーは、今日も深夜の東京を走り続ける。誰かの人生を乗せながら。そして、象子の人生も、少しずつ前に進みながら。


